十万倍速の男 3
数日後、藤堂は帰国中(米国の有名大学に所属)の物理学者、野町泰紀教授と対面していた。
専門は、素粒子論、宇宙論という。
友人のつてで私の手紙を読んだ教授から、
「是非、お会いして話をうかがいたい」
旨の連絡があったのだ。
運がよかったというより奇跡のような出来事である。
藤堂は、いささか緊張しながらも、これまでの状況と自分なりの考えるところを教授に伝えた。
教授
「うーん・・・」
と言ったきり、額に手を当て、沈黙している。
「やはり信じてもらえないか・・・」
藤堂は、うつむいた。
しばらくの沈黙の後、
「現時点での、私の理解を超えていますね」
「ゲンジテン・・・デノ・・・?」
「あなたの身に起こったことを否定するつもりはありません。
量子力学、宇宙物理学の分野において人類はまだほとんど理解出来ていないのです。
極めて、私の個人的な意見を言わせてもらえれば、理解はできませんが大きな違和感はありません。
今、私達をとりまく物体はすべて原子で構成されています。
その原子は原子核と電子で構成され、さらに原子核は陽子と中性子とで構成されています。
ここで、重要なことは人間が見て、静止しているように見える物体も先程説明した素粒子レベルでは静止しているわけではありません。
ただし、どのように動いているのかは、はっきり分かっていないんです。
よく、原子核の周りを二つの楕円軌道を描いて飛んでいる電子のイラストを見た事があると思いますが、あれは単なるイメージです。電子はあのような飛び方をしません」
「つまり、静止している物体も実は動いていると言う事ですか?」
「まっ、そうなりますね。
それと、藤堂さんの場合、より高次元の世界と現実を行き来しているのかも知れません。
今、我々が生きている、あるいは認識出来ている世界が全てだと考えるのは、早計だと私は考えています。
一昔前の科学万能、人間の理解の外にある事象は全て荒唐無稽・・・
現代の量子力学者で、このような考えを持っている人はまずいません。
実は、宇宙は何で構成されているか、ご存じですか?
「宇宙?ですか・・・
星以外は何も無いんじゃないのですか?」
「そうですよね、真っ暗闇で何も見えませんからね。
無数にあるとされる星・・・つまり人類が認識している中性子や陽子‥つまり原子で構成されている割合は5%で、後はダークマターが3割弱、ダークエネルギーが70%弱と言われています。
つまり、何も分かってはいないと言う事です。
分からないから、ダークでくくっちゃてるわけです。
現在、世界各地の施設で、実験観測が行われています。
日本にもスーパーカミオカンデでニュートリノの観測が行われているのはご存じでしょう。
何でもするすると通り抜けてしまうと言われるものです。
これもダークマターの一つか・・・
まだまだ研究の余地はあるようです」
「はぁ、気の遠くなるような話ですが、それと私は何か関係があるのですか?」
「これも、あくまでも根拠のない私見になりますけど、藤堂さんも宇宙と同じ組成で、身体が5%の原子由来、残り95%がダークマター及びダークエネルギー由来だとしたら‥
どうでしょうか?」
「えぇっ!?
私の身体の大半がダークマター?
・・・・・なんか、悪者みたいですね」
「あはは、もちろん私見です。
しかし、人智を超えるようなことが実際に、
起こってるんですよね・・・
・・・・・
ただし、この話は絶対他ではしないで下さい。
病院送りか社会的に抹殺されますよ」
「はぁ・・・」
つづく
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