偶然 2
偶然2
山森、結局、鰻の白焼を断念し、これは珍しいなと思ったサヨリの刺身と大分県産のアカモクを購入し、酒の肴にするべく、お気に入りの器に盛り付けていた。
と、慌ただしく玄関ドアを開ける音、
「ただいまぁ、あら、帰ってたんだ」
『そりゃそうだよ、別に家出したわけじゃないんだ‥‥』
勿論、声には出さない。
「いやぁ、昔の友達と偶然会っちゃってさぁ・・・」
『偶然会った?・・・』
山森全く興味の無い話だったが、
『へぇ、いつの頃の友達?どこで会ったの?』
巧妙にさぐりを入れたつもりだが、
「どうしたの?・・・やけに興味深々ね・・・」
『(やばっ、・・・)
い、いやそんな事ないよ‥』
「それがねえ、ほら隣町にスーパーがあるじゃない?」
『(ドキッ!)・・・ス、スーパー?』
「そう、スーパー。
あなたもときどき行くスーパーよ」
『俺もときどき行くスーパー?』
「・・・あなた、頭をどこかにぶつけた?」
『な、なんでだよ?』
「じゃ、どうして私の言うことをいちいち復唱するの?」
『いや、べつにそんなことないよ・・・』
妻は、じーっと山森を見つめる。
山森、思わず目をふせる。
「まっいいわ、
たまにはあなたの酒の肴でもと思って鮮魚コーナーで見てたら・・・」
『酒の肴に、鮮魚コーナー!?』
「そうよ、それがどうかしたの?」
『い、いや、続けて続けて』
「あのねえ、あなたがいちいち復唱して話の腰を折ってるの!」
『そ、そうだね。ごめんごめん・・・』
「で、急に声をかけられちゃったの」
『うえっ!‥‥で、で?』
女房、急に山森に近づいて来て、じっと・・・顔をのぞき込む。
「どうしたの?」
『えっ!?な、何が?』
何も悪いことをしていないのに、何を俺は動揺してるんだ‥
落ちつけ、落ちつけ‥と心の中。
「なーんか変ねえ・・・」
『そ、そんなこと無いよ。
だからさぁ、それからどうしたんだよ?』
「あっ、そうそう
いやぁ懐かしい!もしかして早紀ちゃん?って、まぁそれで立ち話もあれだから・・・」
山森、心底ホッとした。
それから、長々と報告があったが、山森は全く聞いてなかった。
つづく