井坂勝之助 その22
虎千代 3
その後
勝之助は常に虎千代と行動を共にした。
青竹を持っての打ち合いを見学し、川に魚を突きに行き、また山へ狩猟に出かける。
時には畑仕事にも精を出した。
勝之助にとっては全てが修行であり、またそのように考え行動し、無駄に時を過ごしているという感覚はまるでなかった。
そのような考えで行動していると、瞬く間に時は過ぎ、三月の時が流れた。
そんなある日、
「虎師匠、今度は私に魚を突かせてくれないか」
「もちろんいいよ、でもまだ無理だろうな・・・」
勝之助は虎千代から竹製の銛を受け取り、構える・・・
そして、
手首を利かせて「しゅっ!」と投げる。
紐を手繰り寄せてみると見事に魚は貫かれていた。
「お、お兄ちゃんすごい!
腕に力がはいってないし、振りかぶってもいない!
おいらの技をもう盗んだの?」
「師匠、盗んだは人聞きが悪いなぁ」
「だって、村の大人の人でも突ける人はほんの数人だよ。
それに皆、子供の頃からやってるんだ。
突然現れたお兄ちゃんがもう突けるなんて信じられないよ。じじ様もきっと驚くよ。
ねぇ、どうして突けるようになったの?」
「私は、剣術の修行を子供の頃から続けて来た。
木刀での手合わせ、真剣での型の稽古、素振りといった具合だ。
これらは膂力が無ければかなわぬこと。
そして、その為の努力をしてきた。
しかし、ここへ来て虎師匠をずっと観察することになって、それだけでは駄目だということを悟った。
脱力するという事を学んだのだ。
力任せに銛を投げるのではなく、可能な限り小さな動きで、尚且つどのような角度で入水させるか・・・
虎師匠のおかげで、魚の動きが読めるようになったこともある。
何もかも師匠のおかげでござる」
「えーっ!
何だかこそばゆいよ‥
うーん、お兄ちゃんやっぱりすごいよ。
もしかしたら、竹刀での打ち合いも見切ってしまったの?」
「それはやってみなければ分からぬが、新たな境地に至ったような気はしている・・・」
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