テーブルロール
この歳になると、日常の日々というものは、実に単調に過ぎていく。
ところが、今日、思いもよらぬ感動的なことに出会した。
今から三十数年前、私はサラリーマンだった。
妻を勤務先に送っていく途中、デパート近くに新しく出来たパン屋を見つけた。
丁度、朝食を食べ損ねていた私は、
「ちょっと待ってて」
と、妻を車に残しパン屋に駆け込んだ。
小さなテーブルロールに手作りのポテトサラダをぎっしり詰めたパンが目に止まり、
「これ、二つください」
車にもどり、一つを妻に渡し、
「美味そう‥」
早速、包装をとりガブリと一口、
「美味っ!
食べてみろよ、凄く美味いよ」
妻も同じように、パクリと一口
「ほんと!」
以来定期的に、その店を訪れるようになった。
どうと言うこともない日常の出来事だった。
それから三十数年、その事はすっかり忘れていた。
もちろん、記憶しておくべき特別な事ではない。
その間、世の中も私自身にもいろいろなことがあった。
よく、年末のテレビ特番で今年一年を振り返って‥
あるいは十大ニュースとかやっているが、
その僅か一年の出来事でも
「あー、そうか、そう言えばそんな事があったなぁ‥」である。
それを三十数回繰り返したわけである。
そして本日、私は仕事絡みで件のデパート近くへ行った。
もちろん、これまでもそのデパート及び周辺へは買い物を始め頻繁に訪れている。
ところがどうゆう訳か、今日はふと、
「そう言えば、あのパン屋さんはまだあるんだろうか?‥」
と、三十数年の間、全く思い出しもしなかったパン屋のことが頭に浮かんだのである。
そう思うと身体が勝手に反応し、車をパン屋のあった場所へ・・・
「あった!
へー、まだあるんだ・・・」
一般に企業の寿命は30年と言われる。
個人の店舗はどうだろうか?
おそらく10〜15年程度ではないだろうか?
私は感動し、嬉しくなった。
路駐し、その店に入った。
ぐるりと売り場を見渡した、店内は狭いのですぐに全体を把握できる。
「あ、あった!
ポテトサラダが詰まったテーブルロール!」
見た目は全く当時のままである。
レジカウンターの後ろがパン工房でガラス張りである。引き戸は半分空いており女性のパン職人が二人。
歳の頃は私と大きくは違わなさそうである。
思わず声をかけた。
「あの、三十数年前サラリーマンの頃、このテーブルロールをよく買いに来てました」
「まぁ、そうですかそれでわざわざ・・・」
ひとしきり話がはずんだ。
よく見ると、若い頃はさぞ綺麗な方だっただろうなというような上品な顔立ちである。
他人が聞けば、なーんだそれだけのことか・・・
であろう。
しかし、私には衝撃的に大きなできごとだった。
三十数年前にタイムスリップしたような感じである。
しかも、この日、
大谷翔平選手は、2打数2安打1ホームラン、2フォアボールの全出塁だった。
やはり、このテーブルロール‥
何かある・・・
文酔人卍
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