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先輩 3
先輩 3
いつものように週末の仕事終わりの居酒屋で、
「先輩、うちの社長は居合をやるそうですよ。凄いですよね」
「らしいな‥」
「なんか、そっけないですよね」
「お前は何も知らないだろうがな。
剣術なんてのは所詮舞踊と同じなんだよ」
「ぶ、舞踊‥‥踊りですか?」
「そうだよ。実際の合戦とか斬り合いってのはなぁ‥
時は永禄三年五月、尾張國桶狭間において今川勢と織田勢が激突する。
わーっわーっ、遠くに軍勢の叫び声がこだまする中、一人の甲冑武者が山中を息も絶えだえにさまよっている。
「ここまで来ればもう大丈夫か‥」と、腰を下ろそうとあたりを伺った、その時、
「おお、田吾作、為爺いたぞいたぞ、甲冑に刀‥こ、これは銭になるべ」
「なっ、なんだおまえらは‥
うーむ、さては落武者狩りだな。
ふっふっふっ、どうやら相手を間違えたようだな。
わしはな、今川きっての剣術の使い手じゃ。
南辰一刀流免許‥‥」
「為爺、こいつなんかぶつぶつ言ってるぞ」
「かまうこたねぇ、やっちまえ田吾作」
「ま、待て、まだ、わしは名乗りをあげてる最中じゃ、そ、そ、それにその竹槍の長さはずるくねぇか、十二尺‥いや、さ、三間槍?
そ、そんなので突かれたら刀が届かねぇじゃねぇか‥」
「田吾作、次郎吉、やっちまえ!」
バコン、バコン‥‥
「い、いや叩くんかぇ」
てなもんだよ、長い竹槍で叩かれたひにゃ北辰一刀流も南辰一刀流もねぇんだよ、竹槍持った百姓の方が強えんだよ」
「南辰一刀流てのもあるんですか?」
「んなこた知らねえよ」
「先輩、僕は剣道三段なんすけど‥‥」
「おっ、そ、そうだったな」
「先輩は‥」
「ち、ちょっと用足しに行ってくるわ」
これが負け組先輩だ、いや牧上先輩だ。