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データ分析・活用の事例を分析する:小売におけるクロスMDと同時購買分析 (バスケット分析) その4 同時購買の解釈

分析屋の下滝です。

本記事のシリーズでは、データ分析・活用だと思われる事例を分析しながら、我々はどのような活動をデータ分析やデータの活用だと呼んでいるのかを考察していきます。

なお、データ分析の各種の枠組みを分析していくという別観点のシリーズは以下を御覧ください。

過去の事例記事の一覧はこちら。

過去の事例分析を整理した記事はこちら。


事例の概要(これまでのおさらい)

前回から引き継ぎ、小売における同時購買分析(バスケット分析)を扱い、そのプロセスをこれまでのプロセスパターンでどのように表現できるのかを確認していきます。

バスケット分析は、小売においては、クロスMD(マーチャン・ダイジング)の施策に使われます。クロスMDは、販売促進施策の一つで、あるカテゴリの商品の購買力を活用して、そのカテゴリと関連性のあるカテゴリの商品をそのカテゴリの近くに陳列することで、買上点数を向上させるというものです[1]。クロスMDの例としては、「カレールー」の売場に「福神漬け」を関連陳列させるのは代表的なクロスMDとなります[3]。

他にもクロスMDの種類と例としては、次のようなものがあります[3]。
・定番系クロスMD:かゆみ止めと殺虫剤、冷却シートと体温計
・気づき系クロスMD:生理用品と貧血改善薬あるいは鎮痛剤
・提案系クロスMD:脂肪燃焼系ドリンクとペットの散歩グッズ

クロスMDを実施検討する視点から考えると、あるカテゴリの商品が買われるときに同時に買われる可能性が高いカテゴリの候補を見つけられると、望ましいということになります。同時に購入されているかどうかは、一つのレシート(バスケット)内にその商品たちが同時に買われているかどうかで分析します。

クロスMDの施策を行うにあたってのID-POSデータ(ID付き購買データ。誰が、いつ、何を、どこで、いくつ、いくらで買ったのか)の役割は以下となります[3]。
・クロスMD企画立案時
 クロスMDの組み合わせ仮説の立案(同時購買率とリフト値の算出)
・クロスMD企画の実施後
 売上実績の評価(POSデータと併用活用)、クロスMD対象商品間の同時購買率の確認、クロスMD反応顧客の店舗購買金額の確認

今回の分析では、1つ目の「クロスMD企画立案時」のプロセスを対象とします。このプロセス内で、同時購買分析(バスケット分析)が行われることになります。

では、例題をもとにプロセスを確認していきます。

クロスMD企画立案

今回の例題は、文献[1]と[2]の解説を組み合わせたものとなります。クロスMD企画立案は、大きくは以下のステップだと考えました。
1.クロスMD施策を行いたい動機の発生
2.軸商品(軸カテゴリ)の選定(仮選定)
3.相手商品(相手カテゴリ)の選定(仮選定)
 3.1.同時購買分析により相手商品の候補を抽出
 3.2.同時購買率とリフト値の基準により候補を選定
4.軸商品と相手商品が同時に買われる理由の解釈

文献[1]によると、まず軸商品を選定し、次に相手商品の選定を行うと計画が立案しやすいと書かれています(スッテプ2と3)。文献[2]では、同時買われる理由を解釈するプロセスが解説されています(ステップ4)。

これまでの記事で、ステップ1~3を議論してきました。今回は最後のステップ4を議論します。

前回は次のようなプロセスで表現したところで終わりました。

軸商品として「カレールー」、相手商品として「福神漬け」が選定された状況からの話の続きとなります。

軸商品と相手商品が同時に買われる理由の解釈

前回の記事では、軸商品と相手商品の組み合わせ選定するにあたり、適切な組み合わせなのかどうかの条件は、数値をもとにしたものでした。しかし、実際に店頭施策として実施するためには、数値だけでは現れないその組み合わせの意味を解釈し、適切かどうかを判断することが必要となります[2]。文献[2]によれば、同時に買われる理由として以下の3つが挙げられています。
1.単に売場が近い
2.たまたま同時期に販促がかかっていた
3.用途やメニュー、購買者の嗜好やニーズに関連性がある

解釈の議論をする前に、クロスMDを施策の観点から再確認しておきます。本記事では、施策案という要素が存在し、その要素はテンプレートとして表現できるものだとして議論を行ってきました。

クロスMDの場合は、軸商品カテゴリと相手商品カテゴリという穴(テンプレート変数と呼んでいます)が空いている、という意味でテンプレートと呼んでいます。その穴(変数)には具体的なカテゴリーを入れていきます。ただし、どのようなカテゴリーでもよいわけではなく、条件があります。この条件の要素もテンプレートとしての施策案の表現となります。また、条件を満たす変数を探すために各種の分析が行われるとして表現しています。

最終的に穴がすべて埋まった施策案は、具体的な施策として表現されます。もちろん、実行可能な実際の施策とするためには、いつ誰が実行するのかなど、他にも決めなければいけないことは様々残っています。

今回の記事で議論する、同時に買われる理由の解釈は、テンプレートにおける新たな条件とみなせそうです。前述の同時に買われる理由を見ていきます。
1.単に売場が近い
2.たまたま同時期に販促がかかっていた
3.用途やメニュー、購買者の嗜好やニーズに関連性がある

1と2の場合は、同時購買リフト値が高くともその相手カテゴリーを関連陳列(クロスMD)などの施策の対象に選ぶわけにはなりません。ただし、1や2の場合の理由は、データからは示されないため、売場の状況や売り方を確認した上で、1と2を除外する必要があります[2]。

3の場合でも、どのような関連なのかを検討が必要であり、一緒に買われる理由がわからないと有効な打ち手(施策)を開発できないと述べられています。理由がすぐに分かるものもあれば深く考えないと分からない場合もあるとのことです。分析者が一人でバスケット分析の出力を見ていても限界があると考えられ、複数名でディスカッションしながら結果の解釈をすることが推奨されています[2]。他にも、文献[1]では、売場担当者やバイヤーが納得して取り組めることも重要である、とも書かれています。

では、1~3を表現していきます。まず施策案テンプレートの観点から見たあとでプロセスの観点を議論します。

施策案テンプレートの条件に追加しました(右下)。

他の条件と異なるのは、分析にあたる要素との関係がないことです

続いて、プロセスの観点から見ていきます。

まず「単に売場が近い」です。以下のようなプロセス要素として解釈できると考えました。
・調査の動機を生み出すプロセス:調査すればカレールーと福神漬けの売場が近いかどうか判別できるため
調査のプロセス:カレールーと福神漬けの売場は近くない
・仮説を検証するプロセス:カレールーと福神漬けの売場は近くなかった

ここでは、調査に関わる2つのプロセスを新たに特定して追加しました。おそらく、売場の近さは、データを集計することなく、売場を見みたり、詳しいものに聞いたり、売場レイアウトの図面等(実際あるのかはわかりません)をみればわかると思われるためです。したがって、単に調べるという意味で調査のプロセスが存在するとしました。

次に「たまたま同時期に販促がかかっていた」です。以下のようなプロセス要素として解釈できると考えました。
・調査の動機を生み出すプロセス:調査すればカレールーと福神漬けで同時期に販促がかかっていたかどうか判明できるため
調査のプロセス:カレールーと福神漬けは同時期に販促がかかっていない
・仮説を検証するプロセス:カレールーと福神漬けは同時期に販促がかかっていなかった

ここでは、売場の近さと同様に調査のプロセスとしました。もしかすると販促の記録自体はデータ化されており、データをもとに確認するかもしれませんが、集計は行われないのではないかと思われます。

最後に「用途やメニュー、購買者の嗜好やニーズに関連性がある」です。以下のようなプロセス要素として解釈できると考えました。
・解釈の動機を生み出すプロセス:解釈を試みればカレールーと福神漬けが同時に購入される理由を生み出せるかもしれないため
解釈のプロセス:カレールーと福神漬けが同時に購入されるのは、○○の理由のためではないか
・仮説を検証するプロセス:カレールーと福神漬けが同時に購入されるのには、○○の理由がありそうだ

ここでは、ここでは、解釈に関わる2つのプロセスを新たに特定して追加しました。

解釈というプロセスを導入しましたが、適切かどうかはわかりません。この点に関しては考察の節で議論します。

今回は、以上です。4回にわたって分析してきたクロスMD施策の分析の企画立案のフェーズはここで終了となります。クロスMD企画の実施後の分析関しては、どこかの機会で実施します。

考察

以下の考察を行います。
・施策立案プロセスにおける条件と分析の関係
・解釈のプロセスと仮説のプロセスの関係
・条件の満たし方

施策立案プロセスにおける条件と分析の関係

前々回の記事で、「施策案のテンプレートで条件が存在するときには、各条件に分析が必ず関連するのか?」という疑問を投げかけました。今回の議論を踏まえると、必ず関係するとは限らない、といえそうです。

解釈のプロセスと仮説のプロセスの関係

用途やメニュー、購買者の嗜好やニーズにどのような関連性があるのかを検討する必要があることを述べました。理由がすぐに分かるものもあれば深く考えないと分からない場合あるというのが実務者からの見解です[2]。

そこで、「解釈」というプロセスが存在するとして議論しました。今回の場合は、同時購買分析(バスケット分析)の結果の解釈です。この解釈というプロセスによる表現が適切なのかどうかと、解釈と仮説の関係について以下で考察します。

まず、解釈という表現ですが、他にもいくつかの候補を検討しました。
・調査のプロセス
・意思決定のプロセス
・議論して結論を出すというプロセス

「調査」は、ここでは、調べれば何かを判別できるプロセスであるととらえました。今回の例で言えば、売場が近いかどうかや同じ時期に販促が行われていたかどうか、などです。

「用途やメニュー、購買者の嗜好やニーズにどのような関連性があるのか」は調査のプロセスとして表現しようとすると、判別ではないように思えます。「どのような」という問いに対する答えが必要なためです。したがって、候補からは外しました。もちろん、調査のプロセス自体の定義を広くすることで、「どのような」を含めるようにできるかもしれません。

「意思決定」は、様々な定義があると思われますが、ここでは、選択肢から選択することだと考えました。「どのような」の問いに対する答え自体も、意思決定の一つだとは考えられます。たとえば、
・関連性がない
・○○の理由のためではないか
・△△の理由のためではないか
のような3つの選択肢から選ぶということだという捉えら方もできるかもしれません。

ただし、意思決定という表現は、どこにでも当てはまりやすいプロセスになるかもしれないという問題があるように思われます。したがって、候補からは外しました。

「議論して結論を出す」は、実際の組織ではこのようなプロセスは多くあると思われます。ただし、これに関しても、どこにでも当てはまりやすいプロセスになるかもしれないと捉えました。したがって、候補からは外しました。

次に、解釈と仮説との違いです。今回、
「カレールーと福神漬けが同時に購入されるのは、○○の理由のためではないか」
といった表現が解釈のプロセスの結果としての表現だとみなしました。

この解釈の結果は、仮説であるとも言えそうです。では、どうして仮説として表さないのかということですが理由は、検証のプロセスが無い、あるいは、検証をする意図がない、と考えたためです。実際は、検証することもできるかもしれません。顧客にインタビューなどをして、同時に買った理由を聞けば、その仮説が適切だったのかわかるかもしれません。

条件の満たし方

施策案テンプレートの条件を満たすかどうかには、3つのプロセスが関わっていました。
・集計のプロセスと比較のプロセス
・調査のプロセス
・解釈のプロセス

これら3つはどのように異なるのでしょうか。プログラミングの概念での捉え方をすることで、より明確になりそうです。
・集計のプロセスと比較のプロセス:もし A > B なら満たす
 ・例:リフト値が2以上なら満たす
・調査のプロセス:もし 事実(真)なら満たす
 ・例:売場が近くないなら満たす
・解釈のプロセス:事実(真)であるとみなして満たす 
 ・例:同時に購入されるのは、○○の理由のためだとみなして、満たす

プロセスパターンの修正

最後に、プロセスパターンのまとめです。今回の議論をもとに、プロセスのパターンを次のように修正しました(変更点は太字)。
・集計の動機を生み出すプロセス
集計のプロセス
調査の動機を生み出すプロセス
・調査のプロセス
解釈の動機を生み出すプロセス
・解釈のプロセス

・知識を生み出すプロセス
 ・比較のプロセス
  ・非課題抽出プロセス
  ・課題抽出プロセス
・非課題抽出の動機を生み出すプロセス
・機会を探す動機を生み出すプロセス
・機会となる仮説を生み出すプロセス
・機会となる仮説を検証するプロセス
・仮説を生み出すプロセス
 ・存在を期待する仮説を生み出すプロセス
 ・施策の実行結果を期待する仮説を生み出すプロセス
・仮説を検証するプロセス
 ・存在を期待する仮説を検証するプロセス
 ・施策の実行結果を期待する仮説を検証するプロセス
・施策案を生み出すプロセス
・疑問を生み出すプロセス
・疑問に対する仮説を生み出すプロセス
・疑問に対する検証方法を生み出すプロセス
・疑問に対する仮説を検証するプロセス
・施策を生み出すプロセス
・施策案を施策に具体化するプロセス
・施策の仮説を生み出すプロセス
・施策を実行するプロセス
・施策の仮説を検証するプロセス

まとめ

今回は、前回から引き続き、小売における販促手法の一つとしてのクロスマーチャンダイジング(クロスMD)施策における、バスケット分析(同時購買分析)を含むプロセスの詳細を、プロセスパターンで表現できるかどうかの検証を試みました。

今回は、ステップの最後となる、同時に買われる理由の解釈を分析しました。

次回は、店舗における売場レイアウトの見直しを、顧客の流入データの観点から行った事例を分析します。

参考文献

[1] 店頭マーケティングのためのPOS・ID-POSデータ分析, 2016
[2] ID-POSデータ活用検定(基礎・カテゴリー分析編)テキスト, 2023
[3] 改訂版 「マーチャンダイジング」と「マネジメント」の教科書, 2015
[4] 52週マ-チャンダイジング: 重点商品を中心にした営業力強化と組織風土改革, 2004 
[5] インストア・マーチャンダイジング 第2版, 2016

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