DXとマーケティングその56:カスタマージャーニーの構造【後編】
分析屋の下滝です。
本記事は、前編の続きです。
MoT
最後にMoTです。行動体験モデルに当てはまるでしょうか。カスタマージャーニーの図で確認しておきます。
上記のカスタマージャーニーの例では、以下の「感情・意識」がMoTとして特定されていました。
・今から仕事!:行動の時点では「職場前のコンビニに行く」の時点
・元気注入したい:行動の時点では、「昼過ぎにストーリーチェック」の行動の少し後の時点
これらのMoTは、以下のステップ4のときに特定されたものでした。
ステップ4
ペルソナが商品を「買いたい」と思う、もしくは「もう買いたくない」と思われてしまう重要な瞬間=「MoT」を見つける。そして、「MoT」に対する、具体的な施策を考えていく。
上記のステップでのMoTの定義は、以下です。
・カスタマージャーニーでのMoTの定義:ペルソナが商品を「買いたい」と思う、もしくは「もう買いたくない」と思われてしまう重要な瞬間
一方で、MoT自体を説明しているときの定義とは、以下でした。
・MoTの定義:ターゲットが特定の商品・サービスと接点を持って、その印象を形成したり変更したりする重要な瞬間のこと
まず、MoTはもともと具体的にどのようなものなのかを確認しておきます。MoTが提唱されたときに使われた事例は、スカンジナビア航空のもののようです。スタッフが顧客と接する時間が平均15秒であり、そのたった15秒の体験が一番重要な瞬間であり顧客満足度が決まるMoTであるという考えのようです(『真実の瞬間』で提唱されたとのこと)。
「カスタマージャーニーでのMoTの定義」と「MoTの定義」で、少しニュアンスが異なるように思えますが、両者ともに、概念としては「瞬間」です。
「MoTの定義」をもとに次のように表現しました。
個々の顧客の時間軸があり、顧客は、特定の時間間隔において、特定の商品・サービスとの接点を持つことがあります(赤線)。その時間間隔において、その特定の商品・サービスに関して、印象を形成したり印象を変更する場合があります。そのような形成や変更が行われた瞬間(青線)があれば、MoTと呼ぶとして表しています。
また、ここでは、顧客が特定の商品・サービスとの接点を持っている時間間隔と、MoTが発生する時間間隔を、別のものとして表現しました。これは、接点を持つという言葉の意味にもよりますが、接点があるがMoTが発生しない前後の時間帯があると考えられるためです。たとえば、印象が形成された食後に引き続きさらに詳しく調べるなどです。
上記をもとに「カスタマージャーニーでのMoTの定義」と比べてみます。
・カスタマージャーニーでのMoTの定義:ペルソナが商品を「買いたい」と思う、もしくは「もう買いたくない」と思われてしまう重要な瞬間
対応するキーワードがあるかみてみます。
・「ターゲット」は、「ペルソナ」に対応しそうです。
・「商品・サービス」は、「商品」に対応しそうです。
・「印象を形成したり変更したりする」は、「「買いたい」と思う、もしくは「もう買いたくない」と思われてしまう」」に対応しそうです。
・「接点」は、対応するものがなさそうです。あるいは、暗黙的です。
再度、カスタマージャーニーを見てみましょう。
上記のカスタマージャーニーの例では、以下の「感情・意識」がMoTとして特定されていました。
・今から仕事!:行動の時点では「職場前のコンビニに行く」の時点
・元気注入したい:行動の時点では、「昼過ぎにストーリーチェック」の行動の少し後の時点
構成要素があるか確認します。
・「ターゲット」には、「汐留勤務の女性27歳プランナー職」が対応します。
・「商品・サービス」には、「自社製品の「カロリーオフのミルクココア」」が対応します。
・「印象を形成したり変更したりする」には、対応するものがなさそうです。理由としては以下です。
・候補としての「今から仕事!」という感情・意識は、商品との接点がある瞬間ではないためです。
・候補としての「元気注入したい」という感情・意識は、商品との接点がある瞬間ではないためです。
結論としては、「印象を形成したり変更したりする」に対応するものがないのに、カスタマージャーニーの例では、MoTとされている「感情・意識」がありました。
このようなMoTの解釈になる理由は、「接点」をどのように捉えるのかによりそうです。
さきほど「MoTの定義」による表現を見ながら、考えてみます。
まず、特定の商品・サービスとの接点を持っている時間間隔に、
・今から仕事!:行動の時点では「職場前のコンビニに行く」の時点
・元気注入したい:行動の時点では、「昼過ぎにストーリーチェック」の行動の少し後の時点
は、入っていないと解釈しました。
特定の商品・サービスとの接点を持っている時間間隔に入るのは、これらの感情・意識の後であると考えました。
それぞれの感情・意識を確認してみます。
まずは、「今から仕事!」です。
ここでは、以下の時間軸での出来事があると考えました。
1.「今から仕事!」という感情・意識が発生し、
2.「職場前のコンビニに行く」という行動が発生し
3.コンビニで「カロリーオフのミルクココア」との接点が発生し、
4.MoTが発生する、または、しない
この場合、4において例として具体的にどのような印象を形成したり変更したMoTなのかは、カスタマージャーニーでは表現されていません。また、3はカスタマージャーニーでは表現されておらず、仮定の話となります。
つまり、「今から仕事!」自体は、MoTではなく、MoTが発生する可能性があるきっかけを発生させる感情・意識であると解釈できそうです。
同様に、もう一つの「元気注入したい」を考えてみます。
ここでは、以下の時間軸での出来事があると考えました。
1.「昼過ぎにストーリーチェック」という行動が発生し
2.「元気注入したい」という感情・意識が発生し、
3.何らかの接点で「カロリーオフのミルクココア」との接点が発生し、
4.MoTが発生する、または、しない
3と4の扱いは、先程と同様です。
つまり、「今から仕事!」と同様に「元気注入したい」自体は、MoTではなく、MoTが発生する可能性があるきっかけを発生させる感情・意識であると解釈できそうです。
したがって、今回例にしたカスタマージャーニーでのMoTの場合は、「感情・意識」の要素とは切り離して考えられそうです。
次に、MoTをもう少しプロセスの観点から解釈してみます。
「MoTの定義」をもとにMoTを構造的に表現するなら、インプットは「特定の商品・サービス」であり、アウトプットは「特定の商品・サービスの印象」であると考えました。
このインプットとアウトプットをつなぐプロセスに対応するものが、行動体験モデルの要素に存在するのかを次に考えます。
現時点での行動体験モデルは以下になります。
アウトプットの「特定の商品・サービスの印象」から考えてみます。印象という言葉の例や定義がないため厳密な議論はできませんが、たとえば、「良さそうだ」「美味しそう」「おしゃれ」「かわいい」「高級感がある」「こういうときに使うと便利そう」などがあると考えました。
これは、行動体験モデルでの「評価結果」に対応するのではないかと考えました。「評価結果」の定義は以下です。
・評価結果:「評価」の結果。たとえば、使いにくい、面倒、価値がないなど。どのように評価する(みなす)のかは、見聞きしたことや、実際のこれまでの「体験や経験」に影響を受ける。
「評価結果」を出力するプロセスとしての「評価」の定義は以下です。
・評価:ある「物事」をどのようにみなしているか。たとえば、ある製品の使いやすさを評価する。
「評価」へのインプットとなる要素は以下です。
・物事:ある物や行い。たとえば、物理的に触れる製品、店員とのやりとりなど。
・評価項目:どのような視点で「評価」を行うのか。たとえば、使いやすさ。
・体験(経験):「行動」した結果。たとえば、製品を使った、製品のことを調べるあたり製品の説明があるウェブサイトを読んだなど。
上記のように考えると、MoTの構造における「特定の商品・サービス」は「物事」に対応すると考えられます。「???」のプロセスは「評価」に対応すると考えられます。
整理すると、MoTの構造と行動体験モデルでの対応関係は次のようになると考えました。
MoTを考えるにあたり、もう少し分析が必要です。
・評価のプロセスが発生する時、すべての評価結果が、商品・サービスの印象を形成または変更させるものなのでしょうか?
評価しても、印象が変わらないケースがあるため、すべての評価結果がMoTになるとは限りません。たとえば、過去にかわいいと思ったことあるものを、再度見て同じようにかわいいと思ったのなら印象は変わらないと考えられます。
では、評価することは、印象に関わるものだけなのでしょうか。印象の言葉の定義によりますが、印象は良かったのに、実際には悪かった、ということは考えられます。たとえば、「美味しそう」という印象ではあったが、実際は「美味しくなかった」というのは考えられそうです。
以下の図のような分類を行いました。
MoT自体は、瞬間を指しますので、評価のプロセスが行われている時が、MoTの候補となると考えられます。
上記の図は、評価のプロセスが3回行われるとして表しています。特定の商品・サービスとの接点を持っている時間間隔に、評価のプロセスが行われ、その評価のプロセスのどれかが、MoTが発生した瞬間となります。
まとめると、MoTの要素も、行動体験モデルの要素で表現できそうです。
まとめ
まとめとしては、カスタマージャーニーにおける「行動」と「感情・意識」「MoT」は、行動体験モデルにおける要素で表現できることがわかりました。
この分析の当初の目的に立ち返ってみると「顧客が行うカスタマー・ジャーニーが、全部または一部がオンラインで行われているかどうか」というデジタル顧客と見なすかどうかを判別するための基準の一つを、行動体験モデルで表現できるかどうかにありました。
そして、カスタマージャーニーをもとに基準を考える上では、以下の特性が必要でした。
特性1.カスタマージャーニーが構成要素からなる概念であるとして表現できる
特性2.カスタマージャーニーに範囲(始まりと終わり)があるとして表現できる
今回例として用いたカスタマージャーニーは、「接点」の要素以外は、行動体験モデルで表現できそうでした。「接点」に関しては、次回に検討します。
次に、特性に関して考えます。
特性1に関しては、フェーズという意味での構成要素はありませんが、「行動」と「感情・意識」「接点」「MoT」といった構成要素は存在しました。
特性2に関しては、ある一つのペルソナにおけるカスタマージャーニーという意味であれば、始まりと終わりはあります。ただし、「全部または一部がオンラインで行われているかどうか」を判別するには、企業は以下のような定義を行う必要があると考えられます。
・共通の時間期間(たとえば1日)を用いて、複数のペルソナを対象とする。
・オンラインとなるような接点は、各ペルソナで共通で表現しておく。ただし、すべてのペルソナがその接点と接するわけではない。
以下では、あるペルソナのカスタマージャーニーを表しています。
接点1、2、4はオンラインとなるような接点であり、このペルソナ以外のペルソナでも表現する接点です。接点には行動が伴うため、各接点と関係をもつ行動も共通のものとなります。ペルソナによっては、これらオンラインの接点を持たない可能性があります。
接点1、2、4が存在するカスタマージャーニーは、そのカスタマージャーニーにおいては全部オンラインになっているという定義ができます。これにより、たとえば、顧客の7割が全部オンラインであるなら、顧客がデジタル化されていると判別する、といった基準の設定が可能となります。
まとめ
顧客がどのようなカスタマージャーニーを行うかどうかは、その顧客がデジタル化された顧客なのかどうかを判断するための基準の一つとなります。オンラインの行動が多ければ、デジタル化された顧客と判断できそうです。
今回は、特定のカスタマージャーニーの枠組みと見なされないようなカスタマージャーニーの例をもとに、行動体験モデルの要素で表現できるかどうかを確認しました。
結果としては、「行動」と「感情・意識」「MoT」の要素は、行動体験モデルで表現できそうでした。今回検討しなかった「接点」に関しては、次回に検討します。続きはこちら。
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