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DXとマーケティングその45:顧客のデジタル化とデジタル・カスタマー・ジャーニー

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係を考えてくシリーズの45回目です。

ここ数回は、最近発売された『コトラーのマーケティング5.0』におけるDXとその他のDX書籍での方法論とがどのように関わり合うのかを分析しています。

DXが全社的な取り組みであるとした場合、その実行のプロセスには、整合性や一貫性が求められます。各DXの方法論において、マーケティング5.0がどのように関係するのかを分析することで、それら方法論にマーケティング5.0の考えを組み込めるかどうかを評価でき、その評価に基づき、適切な方法論を作りだせる可能性があります。

分析の最終的なアウトプットは、各方法論をベースに、マーケティング5.0の要素を組み込んだ新たな方法論となります。以下は『DX実行戦略』の書籍の場合です。

今回のテーマでの連載の議論の流れとしては以下を考えています。
1.マーケティング5.0におけるDXを確認する(第40回の内容)
2.これまでの連載で扱っていたDX関連書籍である『DX実行戦略』『デザインド・フォー・デジタル』『DXナビゲーター』との関係を分析していくにあたり、準備を行う(第41回の内容)。
3.各DX関連書籍での「DXの定義」と比較を行い、共通点や異なる点を明らかにする(第42回の内容)。
 3.1.比較を行うにあたり、枠組みを定義する(今回の内容)。
4.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0でのDX」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。
5.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。


これまでの記事

これまでの連載記事に関しては以下の記事から確認できます。

これまでの話:マーケティング5.0におけるDX

マーケティング5.0に関しての概要と、マーケティング5.0でのDXの位置付けに関しては過去の記事を参照してください。

これまでの話:分析のための枠組み

過去の記事では、「マーケティング5.0でのDX」と「『DX実行戦略』でのDX」との位置付けや定義を見比べ、どんな違いがあるのかを特定しました。

これまで述べてきたように、マーケティング5.0でのDXは「デジタル能力を構築する」という戦略に対応すると捉えています。そして、この戦略がどのような課題解決を目的とするのかをもとに、DX書籍の一つである『DX実行戦略』を具体例として取り上げ、DXの定義を見比べました。以下の図に、それぞれの要素を示しています。

上記の要素をもとに、具体的には、以下の4つの違いを特定しました(詳しくは過去の記事を参照)。

1.「対応する能力を築くこと」と「業績を改善すること」の違い
2.「デジタル化した顧客のニーズ」を対象としているかどうか
3.「組織を変化」を対象としているかどうか
4.「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いる」を対象としているかどうか

これらの違いを一つずつ分析していくことが今後の議論の流れとなります。まず項目2を対象に分析していきます。

順番に分析していきますが、これまでの記事では、顧客だけでなく、顧客との関わりのある要素を議論する方が良さそうだと思えため、そのための枠組みをまず議論しました。

この枠組みでは、3Cのように、「顧客」、「自社」、「競合」の要素を基本要素とした枠組みです。その他の要素は、必要に応じて拡張していきます。

3Cモデル

さらに、この枠組をデジタルの視点で表した枠組みは以下となります。

3DCモデル

ここでは、上記2つの枠組みは、各要素が変化するとして、関係づけられます。

3Cto3DCモデル

そして、DXの取り組みとは、この変化に関わるものであると捉えて、マーケティング5.0でのDXとDX実行戦略でのDXの定義を枠組みの要素を関係づけました。

すで述べたように、現時点の分析の焦点は、左上の「デジタル対応顧客」に関係する「デジタル化した顧客のニーズ」です。

分析を行うにあたり「デジタル対応顧客」が具体的に何を意味すのかの定義が必要です。どのように定義することができるのかは『マーケティング5.0』でされている議論を参考に考えていくことにしました。

議論の流れは以下となります。
手順1.「デジタル対応顧客」の定義を行う。
手順2.『マーケティング5.0』での「デジタル化した顧客のニーズ」の定義の確認を行う。
手順3.これらの定義ともとに『DX実行戦略』における顧客の捉え方を見ていく。

なお、補足の1つ目として、「デジタル対応顧客(デジタル化した顧客)」とその顧客にとってのニーズは異なると解釈しています。

補足の2つ目として、『DX実行戦略』でのDXの定義には、顧客に関係する要素は含まれていませんが、念の為に本文を踏まえて、確認を行います。顧客をどのように捉えるのかで、DXの捉え方が変わると思うためです。最終的に『マーケティング5.0』と『DX実行戦略』の統合を検討する際には、両者の顧客の捉え方の違いが、整合性や一貫性に影響する可能性があるためです。

手順1の議論の出発点としては、2つあると考えられます。
1.「デジタル化した顧客」とは、「顧客のデジタル化への準備度」での顧客の性質のことを意味すると解釈し、性質の要素を特定する。
2.マーケティング5.0での課題の背景とされている「世代間ギャップ」、「富の二極化」、「デジタル・ディバイド」の三つの課題の議論の中から、デジタルと顧客が関係する要素を特定する。

上記の図に、この2つの出発点を追加しました(左上)。

どちらがいいのかは分かりません。ひとまず、1つ目をもとに議論したいと思います。

顧客がデジタル化されているかどうかの基準

これまでの記事で見てきたように、『マーケティング5.0』では以下の図をもとに、企業がとる3つの戦略を議論しています。どの戦略をとるのかは、企業(自社)と顧客、それぞれのデジタル化への準備度を評価することで決まります。

「顧客のデジタル化への準備度」が低いか高いかの評価項目の基準の分類は以下となっています。
・デジタル顧客基盤
・デジタル・カスタマー・ジャーニー
・顧客のデジタル化傾向

詳細を以下に引用します。

・デジタル顧客基盤
 1.顧客基盤の大多数がデジタルに精通しているY世代とZ世代である
 2.ほとんどの顧客がすでにデジタル・プラットフォームを通じて会社と関わり、取り引きしている
 3.製品・サービスを消費または使用するとき、顧客はデジタル・インタフェースで接する必要がある
・デジタル・カスタマー・ジャーニー
 1.カスタマー・ジャーニーは、すでに全部または一部がオンラインで行われている(ウェブルーミングやショールーミング)
 2.顧客がイライラする物理的タッチポイントは、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ、強化できる
 3.顧客が独力で十分な情報に基づいた決定を下せるよう、大量の情報がインターネットで入手できる
・顧客のデジタル化傾向
 1.顧客は会社との物理的インタラクションを不必要、無意味、無価値とみなしている
 2.製品・サービスがあまり複雑ではないとみなされており、したがってリスクや信頼の問題が少ない
 3.ほとんどの顧客にとって、選択肢の増加、価値の低下、品質の低下、利便性の工場など、デジタル化を促す誘因のほうが多い

コトラーら、『コトラーのマーケティング5.0』, p.142

前回は、最初の分類の「デジタル顧客基盤」の3の項目のそれぞれを基に、顧客がデジタル化されているかどうか(デジタル対応顧客かどうか)の基準を次のように定義しました。
・顧客がデジタルに精通しているかどうか
・顧客がデジタルプラットフォームで取引しているかどうか
・顧客が製品・サービスを消費または使用するときデジタル・インタフェースで接しているかどうか

また、基準に関係する要素とそれらの関係を図で整理しました。

ただし、概念として曖昧な点は残りました。たとえば、「デジタルプラットフォーム」が存在するなら「デジタル・インタフェース」が存在することになるのか、などです。

今回の話:デジタル・カスタマー・ジャーニーと顧客のデジタル化

今回は、「顧客のデジタル化への準備度」の評価項目の2つ目の分類である「デジタル・カスタマー・ジャーニー」をもとに分析をしていきます。

具体的には「デジタル・カスタマー・ジャーニー」での以下の3つの項目に関して確認していきます。
1.カスタマー・ジャーニーは、すでに全部または一部がオンラインで行われている(ウェブルーミングやショールーミング)
2.顧客がイライラする物理的タッチポイントは、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ、強化できる
3.顧客が独力で十分な情報に基づいた決定を下せるよう、大量の情報がインターネットで入手できる

確認は、以下の2つの視点で行います。
・各項目において「顧客がデジタル化されているかどうか」をどのような基準であると捉えるか
・各項目において、その項目がどのような要素で構成されているのか

【デジタル・カスタマー・ジャーニー】カスタマー・ジャーニーは、すでに全部または一部がオンラインで行われている(ウェブルーミングやショールーミング)

ウェブルーミングとは、オンライン(ウェブ)で調べて店舗で購入することを意味します。ショールーミングはリアル店舗で体験してからオンライン(ウェブ)で購入することを意味します。

つまり、オンラインのチャネルとオフラインのチャネルを組み合わせて使う顧客がいるということです。

ここでは、「顧客がデジタル化されているかどうか」は、「顧客が行うカスタマー・ジャーニーが、全部または一部がオンラインで行われているかどうか」であると捉えました。「オンラインのチャネルとオフラインのチャネルを組み合わせて使う顧客がいるかどうか」でも良いかもしれません。

前回のデジタル顧客基盤での図に追加する形で、次のように表現しました。「カスタマー・ジャーニー」を追加しました。

【デジタル・カスタマー・ジャーニー】顧客がイライラする物理的タッチポイントは、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ、強化できる

ここでいう「タッチポイント」は、同書では、次の具体的なものが挙げられています(p.187)。
・ブランド・コミュニケーション
・小売体験
・販売員とのインタラクション
・製品の使用
・顧客サービス
・他の顧客との会話

なおここでのタッチポイントの概念は、カスタマージャーニーの概念の捉え方にもよりますが、カスタマージャーニーの構成要素として含まれるものだと捉えられます。

タッチポイントには物理的(オフライン)なものもあり、その際に顧客がイライラすることがあるというものです。たとえば、オフラインでのタッチポイントでの次のような不満要素が挙げられています。
・長い待ち時間や行列
・複雑なプロセスによる混乱な時間の消費
・人間とのインタラクションにおける不満
 ・無能なスタッフ
 ・統一されていない応答
 ・不十分なホスピタリティ

これらの不満をデジタルテクノロジーで置き換えたり強化できるかどうかというのがこの項目です。

ここでは、「顧客がデジタル化されているかどうか」は、「顧客が、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ、強化されたタッチポイントを体験しているかどうか」であると捉えました。

図に「物理的タッチポイント」と「デジタルテクノロジー」を追加しました。

【デジタル・カスタマー・ジャーニー】顧客が独力で十分な情報に基づいた決定を下せるよう、大量の情報がインターネットで入手できる

これは、具体例がないためどういう意味か分かりませんでした。カスタマー・ジャーニーの文脈で書かれているため、カスタマー・ジャーニーでの「調査」の顧客の行動に関わるのかもしれません。同書では、カスタマー・ジャーニーの枠組みとして5Aを使っています。5Aでは顧客の行動を5つに分けています。
・認知:体験、広告、推奨によってブランドを知る。
・訴求:ブランドメッセージを処理し、特定のブランドに引き付けられる。
・調査:好奇心に駆り立てられて、追加情報を調べる。
・行動:追加情報によって考えが強化され、どのブランドを購入、使用するかを決定する。
・推奨:時間とともにロイヤルティの感覚を育み、その感覚は推奨によって示させる。

調査に関してはさらにこう書かれています(p.189)。「顧客は好奇心に駆られて、通常、自分が引き付けられたブランドについて積極的に調べ、友人や家族から、メディアから、あるいは当該ブランドから直接、追加の情報を得ようとする。」

ここでは、「顧客がデジタル化されているかどうか」は、「顧客がインターネットで入手できる大量の情報に基づいた決定を下しているかどうか」であると捉えました。

図に「インターネット上の情報」を追加しました。

まとめ

まとめると、顧客がデジタル化されているかどうか(デジタル対応顧客かどうか)の基準には、以下がありそうです。
・顧客が行うカスタマー・ジャーニーが、全部または一部がオンラインで行われているかどうか。
・顧客が、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ強化されたタッチポイントを体験しているかどうか。
・顧客が、インターネットで入手できる大量の情報に基づいた決定を下しているかどうか。

次回は、「顧客のデジタル化への準備度」の3つ目である、「顧客のデジタル化傾向」に関して、同様の分析を行います。

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まとめ

今回は、「デジタル対応顧客」の定義を、マーケティング5.0での議論をもとに行いました。デジタル・カスタマー・ジャーニーに関わる項目をもとに、デジタル化された顧客かどうかの基準を定義しました。

次回は、「顧客のデジタル化への準備度」の3つ目である、「顧客のデジタル化傾向」に関して、同様の分析を行います。

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