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マサのギャンブルデビュー②
中学生のころ、実家近くに突如オープンした理髪店。
今では珍しくないカットのみ1200円ぐらいの設定。
当時は、組合の協定価格か何かでどの店も同じ料金だった中、非常に安く珍しい存在だった
生まれ育ったの街は、決まった店で、決まったものを、先祖代々買うという文化。それは理髪店も同じだった。
たとえ安価であっても、すぐに多くの客が押し寄せるという状況にはならなかったが、決して裕福ではない育ちのマサをはじめ、近隣の住民たちの何人かはその店を利用していた。
その店は、当時40代だっただろうか。小柄で、ちょっとやんちゃな感じの男性理容師と、
30代だろうか、少し陰のあるおとなしめの女性アシスタント2人で営んでいた。
カット中どのような話をしていたか、全く覚えていないが、ある日の会話だけは強烈に記憶に残っている。
「よお、兄ちゃん。競艇知ってるか?あれはおもろいぞ。そんで儲かる」
横山のやっさんがテレビで「おー、まくれ!差せ!」などとネタにしていたことから、ボートレースの存在は知っていたが、どのような場所で、どのように行われているかということは、中学生のマサにはまだ分かっていなかった。
「今度、びわこに連れてったるわ」
滋賀県はマサの父親の故郷。舞子の浜やびわ湖タワー、紅葉パラダイスは行ったことはあれど、びわこ競艇はさすがに訪れたことはなかったが。。。
「ええよ。いつ行くの?」
と乗り気のマサ。
「じゃあ、今度の夏休みな」
と、理髪店が休みの月曜日に合わせ日程を決めたと記憶している。
しかし、その数週間後だったろうか、理髪店は、何の予告もなく突然閉店。
売り上げ不振か?それとも組合に入らなかったから何らかのプレッシャーがあったのか?
そう思いを巡らせていた時に、近所のおばさんが教えてくれた噂話は、その斜め上を行くものだった。
「あの散髪屋さん、広島で殺人容疑で逮捕されたんやって」
そのおばさんによると、一緒に店に立っていた女性アシスタントとの結婚の許しを得るため、女性の実家を訪問。しかし、両親に大反対され逆上、殺害に至ったという。
どこまで本当かは今となってはわからないが、いつもにこやかなあの理容師がなぜ、そこまでのことをしでかしたのか?あのおとなしめの女性アシスタントとのなれそめ、そしてなぜ両親は大反対したのか?いろいろ疑問だらけだが、
その夏のマサの競艇デビューが延期になったことだけが事実として残った。