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缶詰【ショートショート】

 お腹が空いたので、近くのコンビニに弁当を買いに来た。

 時間が遅かったからか、弁当は売り切れ、おにぎりもサンドイッチも売り切れていた。
 菓子パンを買おうかと思ったけど、甘いパンは太りそうで嫌だ。カップ麺……という気分でもない。
 仕方なくパックご飯と缶詰、それとジョンのお土産にドッグフードを買って家に帰った。

 ジョンはお利口な同居人。お手、おすわり、待てを、完璧にマスターしている自慢の愛犬だ。

 家に帰った俺は、早速ジョンにご飯をあげる。専用の食器にドッグフードを入れ、ジョンの前に置いた。

 「ジョンまて! まてだぞー、まてまてー……よし!」

 そう言うと、ジョンは勢い良く食べ始めた。

 「さて、俺も食べるか」

 パックご飯をレンジで温める。そして缶詰を開けると……中から不思議な光が飛び出した!
 
 数秒で消えて行く光。恐る恐る缶詰を覗き込む。すると、中から小さなイカ……のような生き物が現れた。

 「助けてください」

 イカ……のような生き物は、そう訴えかけてくる。

 「私達は、食べるととても美味しいらしいのです。だから乱獲され、ほとんどの仲間が捕まってしまいました。このままでは絶滅してしまいます。なんとか逃げ出そうと、色々やってみたのですが……どうしても出られませんでした。そんなとき、あなたが天井を破ってくれたのです! お願いします。その、大いなる力で私達を助けてください!」

 イカ……のような生き物は必死に訴えかけてくる。困っているのなら、助けるのもやぶさかではない。が……とりあえず腹が減った。

 「助けが必要なのか?」
 「はい! 他にも私と同じように捕まっている仲間がいます。仲間を助けたいのです!」

 なるほど、どうやらイカ……のような生き物の仲間も、缶詰に入れられているらしい。そいつらを助けろってことは、缶詰を開けまくれってことか。

 その前に、缶詰を大量に買う必要もあるな。ということは、かなりのお金がかかるわけだ。
 
 「仲間はどのくらいの数居るんだ?」
 「ざっと数万匹です」
 「ふむ……」

 缶詰1つに1ぴきだとして……そんなにたくさん、缶詰を買う金はない。さて、どうしたものか……。

 対応を思案していると、チーン♪ という音が聞こえた。どうやら、ご飯の温めが終わったようだ。

 いそいそとご飯を取りに行く。

 「お願いします。このままでは仲間たちがみな、踊り食い? とやらで食べられてしまいます」
 「話はわかった。とりあえずそこから出すから、大人しくしてな」
 「は、はい!」

 イカ……のような生き物を箸でつまんで、お皿の上に置いた。見れば見るほど不思議な生き物だ。ただ、凄く美味しそうな匂いがする。お米とセットで見ると、なるほど……食べたくなってくる。

 ご飯を食べ終わったジョンも、鼻を鳴らしながらイカ……のような生き物を見ている。見たことのない生き物が珍しいのだろうか。

 「なぁ、あんた名前はあるの?」
 「もちろんです」
 「なんて名前?」
 「私の名前は、ジョンマテ・リイア・ヨシ・パックン2世です」
 「えっと? じょんまて……」

 ジョンは待ての体制になった。

 「りいあ……?」

 ジョンは首をひねっている。

 「よし!」

 パックン。

 「あ……」 

 ジョンが美味しそうにモグモグしている。

 こうして、イカ……のような生きもの救出作戦は、始まる前に終わったのだった。

(了)

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