吉祥寺の妖精
昔、又吉直樹さんが書いていた『猿』というブログをよく読んでいた。
まだスマホでなくガラケーで読んでいた。
『猿』では、東京の街を漂っているかのような又吉さんの日常が描かれていた。特に又吉さんが住んでいた吉祥寺の街がよく登場した。
私も、同じように吉祥寺の街を漂流していた時期だったので、馴染みの場所を共有している感覚で、嬉しかった。
吉祥寺の街で流されたり沈んだりしていれば、いつかきっと又吉さんに会えるはず。
そう思ったが、結局一度も会えなかった。
その代わり、楳図かずおをよく見かけた。
楳図かずおは「吉祥寺の妖精」だ。出会えたら少しだけ幸せになれる。
二日連続で同じ交差点ですれ違った時には、嬉しさよりもむしろ、恐さがまさったけれども。
漂流中は一人で物思いに耽るために珈琲を飲むことも多かった。ただ、渋い喫茶店に入るのには勇気が必要(お金もあんまり持ってなかった)で、なかなか入れなかった。
惜しいことをしたなと、今となっては思う。
『火花』にも登場する武蔵野珈琲店とかで、又吉さんにも出会えたかも知れない。
あの頃からどれくらいの月日が経っただろうか。
私は髪を黒く染め「社会人」になり、又吉さんはロン毛のまま芥川賞をとった。
昔は現金主義だったのに今ではiPhoneで決済を済ませている。
マスクの下の肌荒れがなかなか治らない。
何にもなかったようで、いろんなことが変わったらしい。自分も世界も。
今日は四月一日。新年度になった。
計算してみた。今年で社会人十年目だった。なんてこった。働きすぎだ。そりゃ色々変わるさ。
それでもやっぱり、今も、自分の心は漂流したままだ。山梨の地で。
今でも楳図かずおは、吉祥寺で元気に幸せを配っているはずだ。
(そうあって欲しい)
#coffee
#珈琲
#oitoma
#ぐわし
2023.4.1
【追記2024.1.22】
又吉さんの『猿』、書籍化しないかなぁ、と密かに熱望している。
今はたぶん、どこでも読めないと思うので。
ちなみに、又吉さんは、『猿』を書いていた頃、パンサーの向井さんと、当時ジューシーズというトリオを組んでいた児玉さんという方と、3人暮らしをしていた。児玉さんは、去年のキングオブコントで優勝した「サルゴリラ」の児玉さん。
……やっぱり、今こそ、『猿』は書籍化されるべきだ。