あおぞらの憂い2
そんな幼少期を過ごした彼女は店によく現れる中学生3人組に劣等感かなにか、とにかく彼らの眩しい姿を微笑ましく見る心は出来上がっていなかったらしい。
「すみません、お水ください。」
中学生の男の子が私に言った。
「かしこまりました。あっ」
少し疲れていたのか手を滑らせて床にコップを落としてしまった。
「すみません、今片付けるので。」
幸いにも割れなかったコップを拾った。
「大丈夫ですよ、お姉さん。そんなに慌てないでください。僕、自転車で帰るんで乾くし。」
その男の子が少し濡れたTシャツをパタパタはためかせて励ますように話した。こんな気遣い、自分にはできないとますますの劣等感を抱きつつ、すみません以外の言葉が出てこない自分にも呆れた。あと2人の女子中学生も全然大丈夫なんで、気にしないでくださいねと言った。
アルバイトがない日曜日。天気は曇り。1日家にいて身体が硬くなったので運動がてら散歩をした。海沿いは潮風が強いので、駅がある方の商店街に向かって歩いた。それでも風が強く髪の毛が顔にかかって鬱陶しかったので腕につけていたピンクのゴムで1つに結んだ。きゅっと結び上げ顔を上げるとあの中学生3人組が前からやってきた。
「それでさ、英語の単語テストあったから明日ソラとアミのクラスでもあるかもね。」
「えーまじか。ねー、アミ勉強する時間とかないんだけど!あっ、あの人渚町の店の人だよね。」
やばい。潮風が強くてもいいから海沿いを歩けばよかったと激しく後悔した。
「あのお姉さん、こんにちは。休みですか?」
すれ違う時、すかさず男の子が聞いてきた。私は俯き加減にはい、そうです。とだけ返事をした。
「僕たちテニス部の部活帰りなんです。お疲れ様です。また店行きますね。」
「ありがとうございます。」
一瞬のやり取りに胸を撫で下ろした。彼らにとっては日常の一部であろうが、私にとっては寝る前も思い出してしまうほどその日の全てであった。