あおぞらの憂い
私は渚町の店で働いてもう4年になる。田舎のわりに工場が集中していて毎日忙しくて、なんだか辛気臭かった。私の若さが毎日少しずつ削られているような気がした。歳をくう前に心が歳をくってしまって誰も私のことを見なくなるだろうと本当に思っていた。昼の時間は定食屋をやっていてこれも地元の工場で働く大人たちがこぞってやってきた。昼の12時で3組ほどの待ちはよくあることで、平日はもはや工場の食堂だと思っていた。ここの店は日曜の昼が休みで土曜日は店を開けていた。土曜日にはおばあちゃんが孫を連れて食べにきたし、家族連れが多くて違った疲労があった。
その中でもいつも来てくれる中学生の3人組がいた。彼らはいつもラケットを持ってやってくる。おそらくテニス部である。その3人組がガツガツご飯を食べている無邪気さに同じ人間とは思えない、私と彼らを隔てる何かを感じて虚しくなった。私にもあんな時代があればよかったが、残念ながら小学3年生から不登校。中学は行こうとしたが、雨が降っていて行きたくないなあ。例えるとそんな気分で。結局ろくに通えなかった。学校に行けなかった日とお母さんの仕事が休みの日がたまにかぶる時があり、それが幼いながらの生きがいだった。今考えるとそうだと思う。
その1日の始まりが今働いている店で定食を食べることだった。店が開く前に並ぶ。11時、60を過ぎたくらいのおばさんが私たちを迎え入れてくれる。人見知りの私をよそに母とおばさんはいつも世間話をしていた。
「マユちゃん、今日もざるそばでいいの?」
人見知りの私はうなずくだけ。だけど本当に嬉しかったことだけは今でも覚えている。ざる蕎麦が今でも1番好きな食べ物だからだ。母は日によっていろいろで、少しくれるしょうが焼き定食の肉をざる蕎麦のツユをつけて食べた。そんな脂が浮いたツユも全部飲んでしまうくらい好きだったような気がする。
工場の人たちがなだれ込む12時までには店をあとにした。家に帰る途中で本屋さんに寄る。大学で教授の研究助手のような仕事をしている母はいつも生物学の難しい本を読んでいた。
「マユちゃん、好きな本見ておいで。今日は特別に一冊だけ買ってあげるから。」
そう言われても人見知りの私は母の近くから離れなかった。その日買ってもらった花の図鑑は文字が多くてあまり読まなかった気がする。しかし幼き頃の彼女にとって、そんな事は重要ではなかった。ただ買ってもらった本の重みと新品の香りだけで良かった。