老婆集成〈3〉
猫ばば
白線の内側を自転車で走っていると、前を走る二人の老婦人がにわかにブレーキをかけて止まった。二人は、まあ、とか、わあ、とか云いながら、ハンドルに手をかけ、前方に身を乗り出す。彼女たちの視線の先に何かがあるようだった。彼女たちは一向に動こうとしないので、私は少し脇に寄り、彼女たちが見ているものを視界に入れた。
それは猫だった。おおよそ白い毛並みのなかに、ぽつぽつと黒茶が点在している。猫はこちらに背を向けていて、アスファルトに尻をつけてじっとしていた。
見て、今にするわ。
老婦人たちは目を輝かせながら猫を見ている。猫はさっきから動かない。ただ座っているのではなく、猫は今まさにそこで排泄行為をしようとしていた。ぺたりと地面に屈み込み、後ろ脚をきゅっと胴にくっつけ踏ん張っている。背筋はぴんと伸ばされて、咽喉から肛門までの消化管を真っ直ぐに保ち、筋肉と意識の方向を一点に集中させている。心ここにあらずといった表情であるが、どこか凛として涼しげでもある。
もうすぐかしら、出るわよ。
品の良い野良猫は、他人に尻穴を見せるような、はしたない真似はしない。ぽろぽろと種を蒔くようなマーキングは猫の趣味には合わない。そっと狙いを定めて印を捺すように、そこに生きていた痕跡を残す。
そろそろ上げるかしらね。
そのときは急にやってきた。猫は用事を思い出したようにすっと立ち上がると、まっすぐ前を向いたまま歩き去った。
出たわね。ええ、出ましたわね。老婦人たちもまた、どこか肩の荷が下りた様子で微笑み合ったあと、悠然として去っていった。
今日もいい日だわ。ええ、とっても。