【映画】「SNS―少女たちの10日間―」感想・レビュー・解説
マジでこの映画は、子供を持つすべての親は観るべきだし、結婚して子供をもうけるつもりのあるすべての人も観るべきだ。
頭の中で漠然とイメージしていることが、この映画を観れば「現実の脅威」としてその輪郭が明確になるだろう。
冒頭で、こんな表示が出る。
【チェコでは6割の子供が、制限を受けずにインターネットを使っている。41%の子供が、性的な画像を要求された経験を持つ。子供たちの1/5は、ネットで会話をする知らない人と直接会うことをためらわない】
チェコでの数字だが、日本も大差ないだろう。この映画を観ずに、「自分の子供は大丈夫」と言っていてはダメだと思う(既に危機意識を持っていれば別だが)
今この映画が観られるべきなのは、年代という背景もある。
この映画では、「12~13歳に見える女優」を募集し、オーディションで3人が選ばれている。オーディションにやってきたのは23名だが、その内の19名が、自分も子供の頃にネット上で性的な被害に会ったと、オーディションでのやり取りの中で明かしていた。
このような経験を実際に持つ人が大人になり、結婚し、その子供が12歳ぐらいになるような時代には、親が自分で経験しているので、危機意識は高いだろうと思う。しかし、今12歳前後の子供を育てている人は、そうじゃないはずだ。僕は38歳で、結婚もしていないし子供もいないが、僕が26歳の時に子供が生まれていれば今12歳。僕ぐらいの年齢の人が12歳前後の子供を育てていると考えるのは妥当だろう。僕が中学生ぐらいの頃は、周りに携帯電話を持つ人がちらほらいる、ぐらいの状況だった。当然、スマートフォンなんかなかったはずだ。SNSは、僕自身はやっていなかったけど、「プロフィール交換」みたいなサイトがあったんじゃないかと思う。大学生ぐらいの時にはmixiが結構流行ってた気がするから、中学生ぐらいの頃には既に存在していたかも。中学くらいのころは、パソコンのインターネットも、電話回線を通じて行うダイヤルアップみたいなのが主流だったはずで、一枚の画像の読み込みにかなり時間が掛かっていた、みたいな時代だ。
だから、今12歳前後の親だろう世代には、自分の経験としてそういう「ネット上での性的被害」を受けたことがない、という人の方が多いんじゃないかと思う。ゼロだとは思わないけど、少なくとも、現代ほど身近なものではなかった。
もちろん子育て中の親であれば、こういうネット上の危険については情報として知ってはいるだろう。しかし、そこまでそれをリアルの脅威として認識できるだろうか。
そういう背景も考えた上で、この映画をすべての親に勧めたい。
このドキュメンタリー映画の舞台設定は、実にシンプルだ。スタジオの中に、子供部屋のセットを3つ組み、3人の女優にはそこで10日間過ごしてもらう。12時から24時まで、スカイプやフェイスブックをオンライン状態にしておき、どんな人が連絡を取ろうとするか、どんなやり取りになるのか、そして最終的には相手と実際に会うというところまで展開させる。
スタジオ内には、監督など映像関係者のみならず、性研究者、弁護士、精神科医、児童保護センター所長なども常時待機。女優たちのケアや、相手とのやり取りの指示へのアドバイスなどを行う。
彼女たちには、
◯自分から誰かに連絡はせず、応対だけにする
◯自分が12歳であることを強調する
◯誘惑や挑発はしない。あくまでも「誰かに話し相手になってほしい12歳」であり続ける
◯裸になることやオナニーなどの性的な要求をされても断り、何度もそういう話が出れば、裸の写真(顔だけ合成したもの)を送る
◯こちらから会う約束を取り付けない
というルールを提示し、それを守ってやり取りを行ってもらう。
結果は驚くべきものだった。おぞましい、と言っていい。同席していた弁護士は、
【これまでのやり取りをずっと見てきたが、性的虐待と犯罪行為のオンパレードだ。君たちがやり取りしているやつらは全員、刑務所送りになって当然の連中だ。正直、ここまで酷い虐待行為を目にしたのは初めてだ】
と驚きを隠さなかった。
さらにこのドキュメンタリー映画は、警察も動かした。警察が映画の素材(当然だが、公開されている映画では、男たちの顔にはモザイクがかけられている)を求め、それを元に捜査が行われているという。
日本の法律ではどうか分からないが、チェコの法律では、
◯性行為がなくても性的虐待となる(オンライン上で男性器の写真を見せる、というような行為も性的虐待となる)
◯15歳以下の子供と性行為を目的として会うことは違法(実際に性行為が行われなくても、「会う」だけで違法ということ)
だということが映画の中で提示される。この実験では、10日間で2458人が彼女たち3人に連絡をしてきたが、そのほとんどが犯罪者だということだ(「ほとんど」という言葉を使ったのには理由がある。映画を見た人には伝わるだろう。この映画には一人、モザイク無しで登場する男性がいる)
男たちの醜悪さは凄まじかった。最初のやり取り(文字上のやり取り)の時点で既に、「もうセックスはした?」「オナニーはしてるの?」と書き、自分の性器の写真を送りつける。ビデオチャットが始まってからは、性器を露出した状態だったり、オナニーをしている姿を映したりし、さらに「服を脱いで」「ちょっとでいいから胸を見せて」と要求する。
女優たちはルール通り、「私は12歳だけど大丈夫?」と繰り返し尋ねるが、男たちは、「僕は気にしないよ」「気にする必要がある?」「僕だって昔は12歳だったしね」という。そんなことを言う連中は、オッサンばかりだ。
映画の中で女優の一人が、性研究者かとやり取りする場面が映る。研究者から「あなたが12歳だったとしたら、(最初から性器を見せてきたり、オナニーするのとか聞いてくるような)こんな連中とやり取りを続けたいって思う?」と聞かれて、彼女は、
【12歳の時の私なら、好奇心から返信すると思う。もちろん裸の写真を送ったりはしないと思うけど、挑発して相手がどういう反応を見せるのか見たいって思うかも】
というような返答をしていた。
また、児童保護センター所長は、子供たちが裸の写真を送ってしまう理由を、
【思春期で、友達や家族などに不満を抱えている時だから、自分を満たしてくれる存在を常に求めている。だから、そんな人物とやり取りを続けたいと思う気持ちから、裸の写真を送ってしまう】
と説明をしていた。
確かに、男たちは彼女たちをメチャクチャ褒める。
公式HPには、監督が今回の映画を撮った意図として、
【オオカミたちが子どもたちと巧妙にコミュニケーションを取りながら、騙したり操ったりする全てのトリックを事細かに、かつ正確に伝えたいと思いました。】
と書かれている。そして確かにそれは、上手く行っているのだと思う。僕たちは、この映画が虚構だと知っているから、男たちのコミュニケーションを「気持ち悪い」としか感じないだろうが、日常に不満を抱えた少女が、「可愛いよ」とか「僕は君の味方だよ」とか言ってくれる相手に心を許してしまうというのも、まったく理解できないことでもないかもしれない。
こういう世界が存在することを理解した上で、子供と接しなければならない、ということだ。映画の最後には、親向けのメッセージとして、
【WEBの制限だけでは不十分です。子供と直接対話をしましょう】
と表示される。確かにその通りだ。
映画では、「えっ?」と思うような展開が繰り広げられる。画面上に登場した男の一人を見て、ある撮影スタッフが「知ってる人かも」と言い出したのだ。こいつもまた、だいぶやべー奴だった。
日本の場合、よほどのことがない限り「日本語が通じる相手」とのやり取りにしかならないだろうから、この映画で実験されたようなワールドワイドな広がりにはならないだろう。とはいえ、つい先日も人気ユーチューバーが同じような件で逮捕されるような事件があった。ネット上の脅威に対して、リアルな手触りを実感できる映画だし、子供を守りたいと思うすべての人が観るべきだと思う。