【映画】「殺人の追憶」感想・レビュー・解説

ポン・ジュノ監督の映画は、「パラサイト」しか観たことがなかった。ので、別の作品を観てみた。

形式としては、割と普通っぽい感じに見える作品なのに、なかなかトリッキーな映画だった。僕は割と、「どこに焦点が当たっているか分かりにくい作品」は得意じゃないだけど、この作品は割と好きだった。

連続殺人事件の捜査をしているのだけど、全然進展しない。確かに、証拠は全然ないし、目撃者もいない。難しい捜査なのは確かだ。さらに、事件が起こっているのはどうやら、韓国の中でも片田舎と言える地域らしく、警察の能力が低い。

そういう状況下で、殺人事件の捜査が行われるのだけど、まあ酷い。勝手に証拠を捏造したり、無理やり自白させたりとやりたい放題。もちろん、それそのものは最低の行為だが、若干の情状酌量があるとすれば、恐らく韓国中で話題になっている事件だったということがあるだろう。早く事件を解決しなければならないというプレッシャーが、映画の中でさほど描かれているわけではないが、あったことは間違いないだろう。

そういう中で、まったく的はずれな捜査を繰り返し、無関係な人間を次々に自白させていく、という展開が、非常にコミカルに描かれていく。

映画のことについて詳しく知らないまま観に行ったのだけど、唯一、不確かな記憶として、「実際の事件をモデルにしている映画」だということはなんとなく記憶にあった。そして、後で調べてみると、やっぱりそうであるらしい。とはいえ、実際の事件との相違も結構あるらしいのだけど。

で、映画を観ながら思っていたことは、こんなにシリアスな事件で、恐らく当時大いに話題になっただろう事件を、こんなに不真面目にコミカルに描いて、大丈夫だったのか、ということ。比較対象としての選択を間違えているかもしれないけど、日本の例で言えば、例えば「酒鬼薔薇聖斗事件」を福田雄一監督が映画化する、みたいな感じじゃないだろうか。まあ、福田雄一ほどギャグではないにせよ、実在する事件を真面目に描いてない感じがある、という意味で、福田雄一が分かりやすいかなと思った。そういう描き方をする作品が、外国でどう評価されたかはともかく、韓国国内でちゃんと受け入れられたというのがちょっと不思議だなと感じた。

そういう疑問があったからこそ、僕が感じることは、「この映画の焦点は、警察批判にあるんだろうか」ということ。そうだとすれば、成立するなと思うのだ。この映画で描かれる警察は、舞台が1986年の、しかも田舎警察だということを差っ引いても、結構酷い気がする。現代的な視点で見れば、「捜査」という意味で近代国家の体を成していない。そういう当時の警察体制を批判するような意図があったんだとすれば、この作品が好意的に受け入れられる理由としては理解できるなぁ、という気がする。

この映画では、酷い刑事2人組の他に、ちゃんとしたソウルからやってきた刑事も登場するのだけど、こっちも最終的には、おぉそんな感じになるんかいな、と思うような展開になっていく。とはいえ、観客としては、こちらのソ・テユン刑事の方に共感するだろう。映画全体の主人公は、ダメ刑事であるパク・トゥマンの方だろうけど、彼はなんというのかストーリーテリング役みたいな感じがあって、観客の共感を惹きつけるのはソ刑事の方な気がする。ラストの展開も、それまでのソ刑事の流れを見ていれば、ムチャクチャだけど、分からなくもないものとして受け入れられるだろう。

あと、ソ刑事の捜査で謎だったのは、「学校のトイレ」の話。あれ、結局なんだったんだ？捜査としては、その後でしれっと別のところに繋がっていって、しかもそれが結構な大発見になるから、「学校のトイレ」の話をすっかり忘れてたけど、あんなに脈絡のない捜査もないだろう。まあ、それほど手がかりがなかったということを伝えるという受け取りも出来るし、実際の捜査もこういう偶然の積み重ねだということを伝える意図だったりもするかもしれないけど。

実際の事件も、1986年に始まった。この映画が公開された2003年の時点では未解決のままだったらしいが、ウィキペディアによると、2019年に、既に別の事件で無期懲役の判決を受けていた受刑者とDNAが一致したと発表され、事件は解決したとされているようだ。

「パラサイト」のポン・ジュノ作品だという色眼鏡で観たから、割と好意的に解釈しようという意識がたぶんあって、もし、ポン・ジュノという映画監督のことを知らないままこの映画を観ていたら、ちょっと悪い評価をしていたかもしれない。と感じるくらい、ちょっと思ってた感じの映画ではなかった。つまらなかったわけじゃないけど、これが韓国や世界で大いに評価されているという理由が、ちょっとあんまり分からないなぁ、という感じがします。