【映画】「新感染 ファイナル・エクスプレス」感想・レビュー・解説

自分だったらどうするだろう、という場面が多々あった。
正しい判断が出来ただろうか?
選択の、連続だ。正しさを判断している余裕は、実際のところない。
というか、「誰にとっての正しさ」を追求すればいいのか分からない。

そう、この映画で問われていたことは、まさにその点なのだと思う。
危機的状況に陥った時、「誰にとっての正しさ」で物事を判断すればいいのか。

どんな言動も、正しさの軸を定めてしまえば、それに沿って正しい/間違いの判断が出来る。
いくら誰かを救う行為であっても、それは大切な人を傷つける結果に繋がるかもしれない。
いくら誰かを傷つける行為であっても、それは大切な人を守る結果に繋がるかもしれない。

『パパは自分のことしか考えてない』

ある場面で主人公は、娘にそう言われる。

確かに主人公の言動には賛否あるだろう。しかしそれも、正しさの軸をどこに設定するかによって判断が変わる、というだけに過ぎない。娘の視点からは、パパは非道な決断をしているように見える。しかし主人公は、最も大事な人をいかに守るかという問いの最善解を導き出しているに過ぎない。正しさの軸は、状況や場面によって常に変化する。確かに主人公の言動は、平時においては残酷で非人道的に思えるかもしれない。しかし有時においては選択肢の一つとして許容されてもいいのではないかと思える。

他人の犠牲にしてまで生きたいのか、という問いに対する答えは様々だろうし、積極的に他人を犠牲にする行為は、たとえそれが有時であっても許されるべきではないと思う(この映画の中にも、そういう人物が登場する)。しかし、仕方ない犠牲もあるはずだし、そうであれば、その犠牲を見込んで何か前に進むための一手を打つことが仕方ない状況もあるだろう。

自分がこの映画の登場人物の一人だったらどうするだろう、と色んな場面で考えた。きっと、決断に迷って大した行動は出来ないだろう。たぶん僕は、モブ側の人間だ。何も出来ないまま、すぐ死んじゃうタイプだろうなぁ。ヒーローにはなれないかぁ。

内容に入ろうと思います。
ファンドマネージャーをしているソグは、そのあまりの忙しさと、他人を顧みない冷徹さが仇となり、妻に家を出ていかれてしまった。母親と、娘のスアンと三人で暮らすが、ソグはスアンを構ってやれず、スアンは誕生日に自分の母親が住むソウルに一人で行くと言って聞かない。ソグは、なんとか仕事のやりくりをつけて、スアンと一緒にKTX(韓国の新幹線みたいなもの)に乗った。
発車直前に乗り込んできた一人の血まみれの女性。皆彼女に異変に気づかないが、やがて事態は勃発する。その女性が乗務員の一人に噛み付いたのだ。それはまさに<パンデミック(爆発的感染)>の始まりだった。時速300キロで走る車内で、「感染者に噛まれると感染する」という謎の感染症が蔓延。乗客は生き残りをかけて、必死で逃げ惑う。
一眠りして起きた時、スアンの姿が見えなかったため探しに出たソグは、その途中でその<パンデミック>の事態に遭遇した。乗客たちと力を合わせながら、なんとか感染しないように逃げ続けるが…。
というような話です。

なかなか面白い作品でした。正直、画的には相当ギャグっぽい感じの映画です。感染者たちが異常に増殖し、車内を徘徊したり、人に襲いかかったりする様は、怖いというよりも思わず笑っちゃうような雰囲気を感じさせました。それぐらい「感染者」役の人たちが振り切りまくった演技をしていたのは良かったですけども。

画的にはギャグなんですけど、全体的にはかなり人間ドラマの要素の強い作品でした。物語の主軸としては、冷徹で他人のことを考えない主人公が、周囲に助けられながらスアンと共に逃げられている状況が続く中で、自分も人を助ける意識が芽生えていく、というような部分なんですが、それ以外にも車内で展開される人間ドラマは色々あります。妊婦を連れ添った男や、野球部の集団と応援団長(女)、何があっても自分だけは生き残ろうと他人を切り捨てる男などです。極限状況の中、彼らは数々の決断に迫られる。それはほとんどが、それまで一緒に協力して逃げ続けてきた誰かを切り捨てるようなもの。そうしなければ他の者たちの命も危うい、というギリギリの状況で、彼らはなんとか決断を積み重ねていく。そういう、極限状況に置かれた人間たちの究極の選択が手に汗握る展開を生み出しているな、と思います。

「感染」あるいは「感染者」に関する設定は、かなりシンプルです。まず、かなり早い段階で分かることはこういう感じです。

◯ 「感染者」に噛まれると100%感染する
◯ 「感染者」はドアの開け方を知らない(だから閉めさえすれば、鍵を掛けなくても大丈夫)
◯ 「感染者」は人が視界に入ると襲ってくる

さらに、あと一つか二つぐらい特徴的な性質が描かれるんだけど、本当にそれぐらいです。原因は何なのか、感染を防ぐ方法はないのか、みたいなことは描かれません。そういう部分を一切物語に組み込まず、ひたすら「逃げる」という部分に物語を特化したのが良かったんだろうと思います。

とにかく、一難去ってまた一難、どころの話ではありません。難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難難…って感じで、ずーーっとヤバイ状況が続きます。しかも、乗客たちには分かりやすい希望も特に与えられません。「◯◯にたどり着ければ助かる」みたいなのが何かあれば、そこまではどうにか生きよう、という風に思えるかもしれないけど、乗客たちは基本的に、どこに行けば自分たちが助かるのか分からないまま、ただ迫りくる「感染者」たちから逃げなければならないんです。これはかなり辛いだろうな、と思いました。

見ていて、あぁ、人間だなぁ、と思った場面がありました。詳しくは書きませんが、車内が二つに分裂して対立した直後の場面です。嫌な予感はありました。で、やっぱりそうなるかー、って感じになりました。その時のその人物の行動が、うまく説明できないけど、あぁ人間っぽいな、と思ったんですね。あの場面は、結構好きです。

設定と大雑把な展開は非常に単純ながら、なかなか惹きつけられる映画でした。個人的には、この映画の後が知りたいなぁ。こんなこと起こったら、韓国崩壊なんじゃないか、と。日本みたいに島国だったらともかく、韓国は陸続きだから、何がなんでも韓国で事態を終息させないと国際問題にも発展するだろうし。いやー、この後の韓国、どうなるのか気になる。「シン・ゴジラ」のその後が気になる、みたいなのに近いですね。

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長江貴士
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