【映画】「マネーモンスター」感想・レビュー・解説
お金というのは、いつの間にか幻想になってしまった。
かつてお金というのは、常に金(ゴールド)と交換できるものだった。ゴールドの保有量がお金の発行限度額だったはずだ。お金というのは、ゴールドよりも便利だから代替物として使っている、そういうものだった。
今ではお金は、実態を失ってしまった。僕にはもう既に、お金というものがどういうものなのか捉えきれなくなっている。今持ってるお金が、銀行口座にある分だけじゃなく、財布に入ってる1万円札や1円玉だって、明日には使えません、価値はありません、となってもおかしくない世の中に生きている。
お金というのは既に、多くの人がそれに価値があるはずだと考えている、という幻想だけで成り立っている。たぶんそうなのだろうと思う。
不思議なものだ。お金は色んな理由で増えたり減ったりする。給料をもらえば増えるし、店で使えば減る。これは分かりやすい。でも、株を買って値上がりしたら増える。値下がりしたら減る。簡単みたいだけど、でもそれって何でだろう?株が値上がりした時それを売れば、買った時との差額で利益が得られる。でもこの利益は、どこから来たのだろう?理屈で言えば、その株を発行している会社の価値の上昇分から、ということになるのだろう。でもじゃあ、会社の価値が上昇するって、一体どういうことなんだろう?
僕の拙い知識で判断すると、「会社の価値が上昇する」というのは、「みんながその会社の価値が上がった(or上がる)と思った」というのと同じ意味だ。株が買われることで株の値段は上がる。株が買われるということは、その会社に株価以上の価値がある、と判断しているということだ。誰が?投資家が、だ。
だから株を発行している会社の価値というのは、「不特定多数の人がその会社にあると思っている価値」ということになるのだろう。つまりまとめると、株が値上がりしたことで得られる利益はどこからやってくるかと言えば、「不特定多数の人がその会社にあると思っている価値が上昇した分」からやってくる、ということになる。
本当かな?何か間違ってるような気がするんだけど。
今の経済は、こんな「誰かがそう思った」みたいなもの凄くフワフワしたものに支えられているのだろうと思う。何か間違ってる気もするんだけど、でもそんな風にしか思えない。土地の値段みたいに、「あなたの会社は◯◯円ですよ」なんていう値付けをしない以上、会社の値段というのはきっとそんな風に決まっているのだろう。
そんな土台がフワフワしたものなんだから、そりゃあ1日で8億ドルぐらう吹っ飛ぶことだってあるでしょう。人間の悪意が介在しているなら、なおさら。
舞台は、毎週金曜日に行われている投資番組「マネーモンスター」。司会のリー・ゲイツは毎週陽気な調子で、投資に役立つ情報を伝えている。オススメの株、市場の動向、株価の変動の理由の説明などなど。リーがダンサーと一緒に踊ったり歌ったりするような、エンターテインメント番組だ。
今ウォール街を賑わせているのは、アイビス株だ。アイビスは、高速取引のアルゴリズムを開発し、そのアルゴリズムを駆使することで急激に利益を上げてきた。リーもアイビス株をオススメ株として紹介したことがある。誰もがアイビス株は順調だと思っていた。
しかしある日、アイビス株が大暴落した。一晩で8億ドルの損失が生まれた。アイビスは、アルゴリズムのバグだと発表していたが、詳細については分からないままだった。今日の「マネーモンスター」も、冒頭でまずこのアイビス株について取り上げる予定だった。
一人の男がスタジオを占拠するまでは。
荷物を持ってスタジオに乱入した男は、司会者であるリーに爆弾をセットしたベストを着せた。犯人の右手には銃、そして左手は何かのボタンを押している。デッドマン装置。親指を離した途端爆弾は起動する。つまり、犯人を撃ったりして手の力が緩めば、その瞬間周囲15mが壊滅する爆弾が炸裂することになる。
カイルと名乗った犯人は、放送を続けるよう指示し、そしてアイビス株を勧めたリーを責め始める。カイルは6万ドル、全財産を失ったという。
ベストはもう一着あった。実は今日、アイビスのCEOであるキャンビーが「マネーモンスター」に出演する予定だった。しかし、飛行機の遅れにより急遽、アイビスの広報係であるダイアンが代理で中継をすることになっていた。
ベストはキャンビー用だった。
カイルは、株の暴落の説明をダイアンに求めるが、ダイアンはアルゴリズムのバグだという話しかしない。カイルは納得しないし、番組を裏で仕切っているディレクターのパティも納得しない。パティは、マイクを通してリーをなだめつつ、アイビスに関する情報を集めるよう指示、アイビス株暴落の背景を探ることにするが…。
というような話です。
久々にこういう、ザ・エンタメみたいな映画を観ましたけど、なかなか面白かったです。あんなに簡単にテレビ局のスタジオに侵入できちゃうんかなとか、そもそも「マネーモンスター」みたいなオススメの株を紹介するような番組ってテレビでやってOKなんかなとか、細かな疑問はあったりするんですけど、観て面白かった、と思う感じのエンタメとしては良く出来てるな、と思いました。
映画を観ていて思うのは、こんな経済の仕組みでホントに大丈夫なんかなぁ、ということでした。より良い代案が存在しない、ということは分かっているつもりなんだけど、それでもなぁ、と思ってしまう。
ある場面で、「“悪い”ってなんだ?」というやり取りが出てくる。法律に違反していれば悪い、というのは分かりやすい。でもじゃあ、法律に違反していなければ悪くない、と言えるのかどうか。ここはもう、感情の問題だ。良い悪いの基準がない以上、明確な判断は不可能だ。
問題なのは、そういう善悪の判断基準を設けられないような仕組みの方にある。悪意一つで、法律に違反することなく、多くの人の感情を逆撫でし生活を脅かすような形で金儲けが出来る。いや、判断基準は設けられるのかもしれない。けど、気付かれないようにやることが出来る、ということだ。
これは好き嫌いの問題だが、マネーゲームは面白くないと思う。マネーゲームでお金が増えても、面白くない。でも、マネーゲームは面白いし、これが今のビジネスなんだ、と思っている人間が、世界の経済を作り上げ動かしている。
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