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「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」体験記

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に行ってきました。

どんなものか、知っている方もいるかもしれませんが、HPから引用してみます。

この場は完全に光を閉ざした“純度100%の暗闇”。
普段から目を使わない視覚障害者が特別なトレーニングを積み重ね、
ダイアログのアテンドとなりご参加者を漆黒の暗闇の中にご案内します。
視覚以外の感覚を広げ、新しい感性を使いチームとなった方々と
様々なシーンを訪れ対話をお楽しみください。
1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によって生まれた
ダイアログ・イン・ザ・ダークは、これまで世界50カ国以上で開催され、
900万人を超える人々が体験。
日本では、1999年11月の初開催以降、これまで23万人以上が体験しています。
暗闇での体験を通して、人と人とのかかわりや対話の大切さ、
五感の豊かさを感じる「ソーシャルエンターテイメント」です。

「目隠しをする」とかではなく、目を開けていてもまったく何も見えない真っ暗闇の中に、白杖一本だけ持って入り、視覚障害者のアテンドを頼りに空間を歩く、というものです。

まずは、どうして「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に行こうと思ったのかという辺りの話から始めようと思います。

最初のきっかけは、確か数年前、何かの本を読んでいて(何の本かは忘れた)、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に関して言及されている箇所を見つけました。その時に、これは面白そうだ、と思ったんですね。

確かその時は岩手に住んでいたので、時々東京に出るタイミングの時にやってないか調べたんですけど、その度にチケットが売り切れだったり、あるいは時期的に休止していたりとタイミングが合いませんでした。

何度目かに調べている時に、「ダイアログ・イン・サイレンス」という、聴覚障害者の世界を体験するというバージョンがあることを知り、チケットが取れたので、まずそちらを体験してみることにしました。こちらもなかなか興味深い体験でした。

その後、たぶん東京に引っ越してきたことをきっかけに、「どうせいつでも行けるだろう」と思って調べなくなり、そのままずっと忘れていました。

久々に思い出したきっかけが、先日観た『サウンド・オブ・メタル』という映画です。メタルバンドのドラマーが聴力を失っていく、という物語なのですが、その映画の中で「手話の拍手」が出てきた時、「あれ、この拍手の仕方、どっかで見た記憶あるなぁ」と思いました。それで、「ダイアログ・イン・サイレンス」のことを思い出すことになります。

しばらく調べてなかったので久々に検索してみると、ちょうど緊急事態宣言が明けたこともあって、なんと「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」がやってるし、チケットも取れるという状態でした。

こういうのはある意味で縁みたいなものもあるから早目に行こう。そう思って、早速行ってきました。

そして個人的には、とても良い体験でした。

色んなことを考えるきっかけになったんですが、一番面白いと思ったのは、「普段『視覚』に頼ってサボってるな」ということでした。

目から入ってくる情報はかなり多くて、自分の後ろ(つまり視野の範囲外)のことでもない限り、基本的には普段「視覚」に頼って様々な判断をしているなと改めて実感しました。強制的に「視覚」が奪われることで、当たり前ですが「情報の捉え方」が変わります。そしてそれによって、それまで考えたことがなかったような思考が出てきたりするのです。

僕が一番面白いと思ったのは、「畳の部屋」で自分が考えたことです。僕はこんなことを考えていました。

(ここは畳の部屋だな。なんとなくだけど、フローリングの部屋よりは危なくなさそうな気がする。畳の部屋ってそんなにモノが置かれていない印象があるし、そもそも木より柔らかいから、もし何かあっても怪我の程度は穏やかだろう。

あと、畳の部屋ってことは、部屋の大きさもある程度推定しやすい。フローリングだと、目で見ないと大きさの予測って難しいけど、畳の場合は、畳が何枚あるかで部屋全体の大きさが分かるし、畳の縁の部分が触れば分かるから自分が移動した距離も判断しやすい)

そして、こんなことを考えている自分が面白いと感じました。普段「視覚」に頼って生きている場合には、絶対に出てこない思考だと言っていいでしょう。

他にも、(人の声だとなんとなく距離感って分かるものだけど、モノの音だと難しいな)とか、(普段乗り慣れてる電車でも、目が見えないだけでこんなに何も分からないものなのか)などなど、新たな発見が様々にあって新鮮でした。

あと、当然ですが、「目が見えないって怖いな」と素直に思いました。

最初に完全な真っ暗になった時、「この状態で歩くって無理だろ」と思いました。体験中、それなりに歩けるようになるものの、それでもこれは、「危険が無いように配慮されているはずの空間だ」という感覚ももちろんあったし、その上で「アテンドの方が色々と先回りで教えてくれるから」というのも大きいと思います。

もし、普通の街中を、誰のアテンドもなく歩くとなったら、とてもじゃないけど足を踏み出せない気がしました。

あと、考えれば分かるはずなんだけどやっぱり想像力が及んでいないよなぁという事柄について、自分が体感することで気づける部分もありました。

例えば電車に乗っている時。ふと、「席が空いてるかどうかどうやって判断するんだろう?」と思って聞いてみたら、「確認するとしたら、白杖で座席付近を探って、人の足に当たらなければ空いてるって判断するけど、そんなことはなかなかできないから、基本的に空いてないものだと思ってます」という返答でした。だから、「声を掛けてもらえるとありがたいです」とも。

いや、こんなことは別に、考えれば分かることなんですけど、でもやっぱりなかなか考える機会ってないですよね。今回、実際に体感してみて、「考えれば分かることを考えていない、という意味でもサボっているな」と感じました。

非常に面白い体験だったんですけど、個人的には「もう少し体験できる動きが多くてもいいかな」と思いました。

例えばですが、キッチン的なものを用意して、そこで料理の動きをやってみる、とか。包丁などの調理道具は手を切ったりしないように安全性を施しながら、視覚障害者の世界をより体験できると面白いな、と。

ただ実際には難しいでしょう。実際に体感してみて、「真っ暗闇の中で細かな作業を教えながらやってもらう」というのは結構無理があるし、どれだけ配慮しても安全面の懸念は拭えないからです。

そういう様々なことを考慮して、今のような形での運営になっているのだと思うんですけど、せっかく、日常的には絶対に体験できない真っ暗な世界にいるのだから、もう少し「動き」という意味で選択肢が多いといいなと思ったりしました。

興味がある方、是非どうぞ。

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