【映画】「ロストバケーション」感想・レビュー・解説

テキサスから、メキシコの秘境のビーチまでやってきたナンシー。母親がナンシーを妊娠中にやってきたビーチで、妹も来たがっていたが置いてきた。ナンシーは、闘病生活を続けながら命を落とした母親を見て、救えない命もあると実感。医学校に通う自分の姿に疑問を抱いてしまい、このビーチにやってきたのは、ある意味では逃避でもある。
現地のサーファー二人とやり取りを交わしながら一人でサーフィンを楽しむナンシー。日が暮れるからと言って先に上がった二人に、あと一本乗ってから上がると声を掛けたナンシーは、その後、近くでカモメが群がっていることに気づく。
そこには、クジラの死骸が浮かんでいた。
危険を感じたナンシーだったが、僅かに遅かった。ナンシーは、脚に激痛を覚え、咄嗟にクジラの死骸まで泳いでいき、その上に乗った。
サメだ。
左大腿部を鋭く傷つけられたナンシーは、クジラの死骸の上が安泰ではないことを知り、近くにある岩礁までなんとか泳ぎ着いた。
干潮時に姿を現すその岩礁は、いずれまた海に沈んでしまう。ピアスやネックレスなどの装身具と上半身だけのライフジャケットという装備で、ナンシーは傷ついた大腿部を応急処置し、そして岸まで帰り着く手段を模索するが…。
というような話です。

非常にスリリングで面白い映画でした。ストーリー自体は「迫りくるサメと対峙し生き残りを掛けた闘いをする」という要約で済んでしまうぐらいシンプルです。メインで描かれるのは主人公のナンシー一人で、後は同じ岩礁に留まる羽が傷ついた一匹のカモメと、時折姿を見せるサメ。映画は1時間半程度と短いながらも、ほぼこれだけの要素だけで一本の映画を成立させるのは見事だと感じました。

物語の技法としてはありがちなんだろうけど、ナンシーには、何度か助かるチャンスがあったものの、様々な不運からそれらはナンシーを救わない。具体的にどんなことがあるのかは書かないけど、普通あの場面で助かるでしょう、と思うんだけど、全然そうはならない。

非常に難しいのは、ここが秘境のビーチであるということで、待っていても誰かがやってくる可能性はとても低い。冒頭で、ナンシーが恐らくヒッチハイクみたいな感じで拾ったドライバーにこのビーチに連れてきてもらうシーンが描かれるのだけど、道がないような林の中を四輪駆動だろう車で突き進んだ先にあるビーチで、おいそれとやってこれる場所ではないことが示唆される。サーフィン中に襲われたので当然通信機器はなく、水も食料もない。いられるのは、満潮になれば沈んでしまう岩礁だけ。岸までは200メートル程度だが、傷ついた脚で、サメに追いつかれずに泳ぎ着ける距離ではない。

この状況で一体何が出来るというのか。

ほとんど選択肢がない中で、途中で手に入ったものも含めて数少ない物を駆使して、ナンシーは可能な限りあらゆる方策を試す。途中で手に入れたある物がナンシーにちょっとした可能性を切り開くことになるが、しかしそれもある意味では運任せでしかない。一体この物語はどう着地するんだろう、と思っていた。

ナンシーにとっての極限状況のラストは、ちょっと驚くような展開になる。そんな風にしてサメとの激闘に終止符が打たれるのかとかなり驚いた。凄かったなぁ。

物語の展開も面白かったが、映像的にも相当にスリリングだった。別に自分がサメに襲われているわけでもないのに、何度も座席の上で悶絶して、自分がサメに襲われそうになっているかのように脚をジタバタさせたりした。ナンシーはサメに何度も襲われるが、そのシーンは圧巻で、ハッキリ言ってメチャクチャ怖かった。

ストーリーがどうの、というようなタイプの映画ではないが、エンタメとしてスリル溢れる映画で、たまにはこういう映画もいいなと思いました

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長江貴士
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