「持ち家か賃貸か」をド素人が論理的思考で考えてみる
「持ち家か賃貸か」みたいな話はよくある議論と言えるだろう。僕も時々読んでみたりするのだが、大体の場合「よく分からない」という印象になることが多い。まあもちろん、「スパッと結論が出るような話題じゃない」から当然なのだが、僕は前々から、「専門的な知識が無くたって、『論理的思考』によってもう少し状況を整理できるはずじゃないか」と感じていた。
ので、自分なりにその辺りの思考をちょっとまとめてみようと思う。ちなみに僕は、不動産業界に関係もなければ、不動産を購入したこともなく、今後購入する予定もないし、だからそういうことについて調べたこともない。つまり「専門的な知識は一切無い」と言っていい。あくまでも、「論理的思考」でもって色んな状況を整理してみよう、という話である。
それでは、先にいくつか大前提となる話に触れておこう。
僕はまず、「個別の物件について考える場合、その物件ごとに個別の結論が存在する」と考えている。例えば、「この物件を購入すべきか否か」や「今住んでいる場所の賃料は妥当かどうか」みたいな話には、個別に答えが存在するというわけだ。しかし、今回はそういう話をしたいわけではない。「個別具体性は排除し、『持ち家』と『賃貸』の比較をする」というのがメインの主旨である。個別具体的な議論をするなら専門知識が必要だと思うが、それ以前の話をしようというわけだ。
さらにこの記事では、「自分が住む家」の話に限定する。「投資のための物件購入」などの話は考えないというわけだ。
また、この記事では「ローンを組んで持ち家を買うこと」と「賃貸」を比較している。つまり、「現金一括で持ち家を買う」のは除外している(「持ち家を買うにはローンを組むしかない」という状況だけを考慮している)というわけだ。個人的には、「現金一括で持ち家を買う」ことが可能なら、それがベストな選択肢だと思っている。「持ち家の購入分」以外にも、生活のために必要なお金がちゃんとあるのなら、それが最も低リスクだと考えているからだ。
この辺りが大前提の話である。それでは、論理的に「持ち家」と「賃貸」について検討していくことにしよう。
まず、ビジネス的な観点から考えてみよう。世の中には「家を売る人」や「家を貸す人」がいるが、どちらの場合も資本主義における「需要」と「供給」の理屈でその値段が決まるはずだ。もちろん、「家を売る」場合は、住宅ローン金利などが時代によって変わったりするだろうし、「家を貸す」場合は、「家を売る」よりも賃料を変動させにくかったりするだろう。このように、それぞれの場合において「単純な需要と供給の論理だけで決まるわけではない事情」もあるとは思う。
ただ基本的には概ね、「家を売る」ことも「家を貸す」ことも同じ土俵上でのビジネスなわけで、そう考えると、「どちらかが極端に有利」みたいなことにはならないはずだ。もちろん、「個別の物件」について検討するなら、有利な方が決まることもあるだろう。しかし、この記事ではそういう話は除外している。あくまでも全体的な議論をするつもりだ。
「需要」と「供給」で決まっているということは、「家を買う方が有利だ」となれば賃貸の家賃が下がっていくはずだし、逆に「賃貸の方が有利だ」となれば住宅価格が下がっていくはずである(と思っているのだが、この認識は正しいだろうか?) だから、資本主義が真っ当に機能している状況であれば、「『持ち家』でも『賃貸』でも大差はない」と言えるはずだ。もちろん、「国の補助金が『家の購入』に流れている」など、「純粋な資本主義の条件」から外れていればまた違うかもしれない。しかし、一般的な状況では、「ビジネス的な観点で見れば両者に大差はない」と考えるのが妥当だと思う。
さて、それではこの「両者に大差はない」についてもう少し詳しく見ていくことにしよう。
ビジネス的な観点で捉えるならやはり、「金銭的支出がどのぐらいあるのか」が比較対象になるだろう。「持ち家」であれば「(ローン・保険料・固定資産税・リフォーム費用等の総額)マイナス(土地・建物の資産額)」、そして「賃貸」であれば「賃料の総額」が比較すべき金額になると思う。そして、「この金額の大小」によって「得か損か」みたいな議論になるはずだ。
また、この記事では「家の購入の際はローンを組む」としているので、先の金額の大小だけではなく、「ローンを組むリスク」も考慮されるべきだろう。将来的にローンの返済に不安が無い人であれば「ローンを組むリスク」は低いだろうし、逆であれば「ローンを組むリスク」は高いことになる。
そして先の「両者に大差はない」という話は、この「金額の大小」と「ローンを組むリスク」を考慮したものだ。そして僕はこの点において「持ち家」と「賃貸」に大差はないと考えているのである。だからこのような観点から両者について検討しても、なかなか差を見つけ出すことは難しいだろう。
では一体何で比較すべきなのか。僕が考えるその指標は、「何をリスクと考えるか」である。
「家」というのは人生においてかなり重要な要素だし、だからこそ「予期せぬトラブル」が起こった時のダメージも大きくなると言えるだろう。そして、「持ち家」と「賃貸」ではそのリスクの性質が異なるのだ。
そのリスクをシンプルに表現すれば、「持ち家」の場合は「動けないリスク」、そして「賃貸」の場合は「留まれないリスク」と言える。どういうことかイメージ出来るだろうか?
この記事では「現金一括での購入」を除外しているので、「持ち家」の場合は基本的に「ローンが残った状態でその家に住んでいる」ことになる。さらに、よほど好条件の立地でもない限り、「土地の値段は大きくは変わらないし、建物の値段はどんどん下がる」はずだ。となると、「ローンが残った持ち家を売って別の場所に引っ越す」ことはなかなか選択しにくいだろう。となれば、「持ち家」を買った場合、「一生そこに住む」ことが大前提となるはずだ。だから「動けないリスク」と表現できる。
逆に「賃貸」の場合は、どれだけそこに住み続けたいと思っても、自分の意思ではどうにもならない。そのため「留まれないリスク」と言える。
では、それぞれ具体的にどのようなものがあるだろうか?
僕が思い浮かぶ「動けないリスク」には、例えばこのようなものがある。
●近くに迷惑な行為を行う住民がいる
●街が衰退したり、空き家が増えたりして治安が悪化する
●子どもがいじめられた場合に転校できない
●何らかの理由で、それまで以上に災害等のリスクが高まった場合に住む場所を変えられない
●近くに高いビルが建つとか、近所のショッピングモールが閉鎖するなど環境が変化する
一方の「留まれないリスク」には、このようなものがあるだろう。
●高齢になると契約の更新が出来ない可能性がある
●常に自分の希望に合う物件が見つかるとは限らない
正直僕は「賃貸派」なので、「留まれないリスク」を具体的には思いつきにくいのだが、恐らく他にも色々とあるだろうと思う。
さて、先程の話に戻すと、僕は「『金額の大小』と『ローンを組むリスク』を考慮した場合にはどちらも大差はない」と考えている。だからこそ、どこに差が生まれるかと言えば、「『動けないリスク』と『留まれないリスク』のどちらをより甚大と捉えるか」だと思うのだ。それが起こる可能性や、起こった場合のダメージを検討し、「どちらのリスクがより高いと感じるか」で判断するのが良いのではないかと考えている。
もちろん、「メリットで検討する方法」もあるとは思う。「持ち家」の場合は「内装を自由に出来る」、「賃貸」の場合は「固定資産税を払わなくていい」などの「メリット」があり、それらをリストアップして比較することも有益だろう。ただ先程も書いた通り、「家」は人生においてかなり大きな要素なので、僕の価値観では「リスクが低い」ことの方がより重要なのだ。もちろんこの点についても個人の考え方次第なので、「メリットの方が重要だ」と考えるのであれば、メリット優先で検討するのも良いだろう。
この辺りのことを自分の価値観に沿って整理すると、自ずと「持ち家」「賃貸」の選択の方向性が見えてくるのではないかと思う。その辺りの感覚を固めた上で「個別の物件」について考えれば、「自分に必要な情報」も見えやすくなるだろうし、結論も出しやすくなるだろう。
さて、あと触れておくべきことは2点。「持ち家を買う場合の『資産減少』」と、「賃貸の場合の『老後の生活』」についてだ。
新築住宅を買った場合、「住んだ瞬間に、建物の資産価値が2割減る」という話を聞く。これが事実かどうかはともかく、「建物の資産価値が時間経過と共に減っていく」というのは基本的に正しいはずだ。リノベーションなどによって上がる可能性もあるだろうが、よほどのことがない限り難しいだろう。
この点は、「家の購入を『投資』と捉える場合」には大きな問題だ。しかし、この記事で取り上げるのは「自分が住む家」の購入の話であり、「投資」的な観点は考慮していない。そして、「自分が住む家」の場合、「『資産価値の減少分』が『持ち家に住むことの価値』に見合う」のであれば、「持ち家」を買うことに合理性があると言えるだろう。
この点については、ツイッターの以下のまとめが分かりやすいと思う。
金銭的な価値は当然減っていくのだが、しかし、それを補って余りある価値を別の何かに見出せるのであれば、「持ち家」を買うことに合理性があると考えて良いというわけだ。
僕は「衣食住」にほぼ興味がないので、「『持ち家』に住むことに特段の価値を見出す」ことは出来ない。ただ、「どんな家に住むかが、自身のQOL(生活の質)に大きく影響する」という人もいるはずだ。それを「金額換算」することはなかなか難しいだろうが、自分の中で、「資産減少分」と比較して「持ち家に住むことによる価値」が上回るのであれば、家を買うこともアリだろう。
ただそうでないなら、「『持ち家購入用のローン相当分』を投資に回し、老後資金を作る」という選択肢もあると思う。「『持ち家』購入のためにローンを組む検討ができる人」なら、ローンを組まなければそれなりの金額を投資に回せるだろう。そうすれば、「老後に終の棲家を購入する」みたいな選択肢も生まれ得るだろうし、未来の可能性が広がるかもしれない。もちろん、投資にも向き不向きがあるので自身の性格を踏まえた上での判断をすべきだと思うが、検討し得る選択肢だと思う。
さてもう一方の「賃貸の場合の『老後の生活』」の話に移ろう。
「高齢者になると賃貸物件を借りにくくなる」という話はよく聞くし、それはその通りだろう。しかしこれは「今」の話である。
「(老後のことも考慮して)ローンを組んで家を買うかどうか」を検討しているのは、20代~40代ぐらいの人ではないだろうか。そしてそうだとしたら、彼らが「老後」を迎えるのは20年以上も先の未来の話である。そして、そんな「未来」に住宅事情がどうなっているのかは誰にも分からないはずだ。
いや、「住宅事情」は不明だろうが、明らかに分かることはある。「人口動態」だ。年齢ごとの人口分布は明確にデータとして存在しているわけで、「自身が老後を迎える時に、人口動態を踏まえた上でどのような社会になっているか」はある程度想像できると言える。
はっきりしていることは、「日本の人口はどんどん減る」ということだ。一方、都心を中心にだとは思うが、「新しい住宅がどんどん建設されている」という状況にある。となれば当然、「未来に進めば進むほど『空き家(人が住まない家)』が増えていく」ことは明らかだろう。
そのような社会でもなお、「高齢者への貸し渋り」は起こるだろうか? もちろん、起こるかもしれないが、起こらないかもしれない。だから、「いまだ見ぬ未来」のことを想定して「今の住居」を決める行動が正解なのかは僕には何とも言えないのである。
もちろん、「将来起こり得るリスク」を今の段階で評価して備えておくことは大事だし、僕もそういう話を先程取り上げた。しかし「家」について考える場合、「老後の住居リスク」だけが突出して強く取り上げられている印象がある。「持ち家」にも「賃貸」にも様々なリスクがあることを想定して、「それらのリスクの大きさを、自分がどのように感じるのか」を考えた方がいいと僕は思う。少なくとも僕の感覚では、「老後の住居リスク」よりも、「30年もローンを組むリスク」の方が高いように感じられる。「老後にリスクがあること」よりも「働き盛りの時にリスクがあること」の方が大変じゃないだろうか? 僕は、そんな風に感じている。
これが、「持ち家か賃貸か」を検討する場合の僕の視点だ。割とシンプルな考え方を提示したつもりなのだが、いかがだろうか?