【映画】「ザ・ケイブ サッカー少年救出までの18日間」感想・レビュー・解説

思ってた以上に良い映画だったなぁ。正直、観るかどうか微妙なラインの映画だったんだけど、観て良かった。

内容に入ろうと思います。
扱われているのは、全世界の人が恐らくその動向を注視していただろう出来事です。
2018円6月23日、タイのチェンライ県にあるナーンノーン山にある洞窟で、それは起こった。練習を終えたサッカー少年12人とコーチが洞窟に入ったが、豪雨により通路は水没、閉じ込められてしまう。詰め所にいたレンジャー員が、置き去りにされたマウンテンバイクを発見し、事件が発覚。13人の生死がはっきりしないまま、緊急で対策が協議されることになる。
タイ当局はアメリカ軍に助けを求め、ハワイにあるインド太平洋軍が出動となった。どうすれば彼らの救助が出来るのか分からなかったが、間違いなく分かっていることがあった。それは「大雨が降る前に救助しなければならないということ」「洞窟内の水を排水しなければいけないこと」「屈指の腕を持つ洞窟ダイバーの手を借りなければならない」ことだ。
しかし、タイ当局との調整は難航する。現場が大混乱に陥っている最中、ターボジェットエンジンを搭載した強力な排水ポンプの製造会社社長が、販売済みだったポンプをかき集めて現地へ向かうが、許可がないという理由で中に入れない(当初使っていたポンプは、排水能力があまりにも低く、まったく無意味だったにも関わらず)。また、彼らを救助出来る技術を持つダイバーはタイ人にはおらず、当然外国人ダイバーの力を借りなければならないのだが、当初は、洞窟内部の地図は機密事項だからと見せてもらえなかったり、「100%の安全が保証できないから」という理由で、ある区画から先の潜水許可が下りなかったりした。
誰もが、その場で自分に出来うる限りの力を差し出したいと願いながら、全体の歯車が上手く回っていかないというもどかしさの中、ようやくイギリス人ダイバーが奥へと向かい、事件発生から数日ぶりに、13人全員の無事が確認された。
しかしここから、あまりに過酷な救助計画が始まっていく…。
というような話です。

映画はとにかく、救助する側の視点でほぼ描かれていきます。こういう映画だと、救助される側の描写もそれなりにあるものだと思うけど、この映画では、少年たち13人の描写はごく僅かで、ほとんど描かれませんでした。まあ恐らくこれは、「少年たちについては散々報道されてみんな知ってるだろう」という感覚があるのかな、と想像しました。この映画は明らかに、救助する側に焦点が当たっています。

「明らかに」と書いたのにはもう一つ理由があります。この映画、冒頭で、他の映画ではなかなか見ない、こんな字幕が表示されました。

【この映画は、実話を元にしたもので、数名については、本人が演じています】

実際最後まで観ると、誰が「本人」なのかが、全員ではないにせよ分かる構成になっています。ドキュメンタリーではなく、あくまでフィクションという作りでありながら、同時にこの映画は、世界を騒がせたあの事件で活躍したヒーローを直に表彰するような、そんな意図が込められているんだろうな、という気がしました。

救出作戦は、細々とゴタゴタは起こりながら、予想外の出来事が起こることなく展開していきます。それは、映画的には地味かもしれないけど、映画を観ながら、地味だとは感じませんでした。やはり、「この映画は、圧倒的な事実を背景にしている」という感覚と共に映画を観るので、「地味さ」みたいなものを感じないんだろうな、と思います。予想外のことは起こらないのだけど、良い映画を観たなぁと感じられる、そんな作品です。

僕が一番良いと思ったのは、救助作戦そのものとは関係のないある場面。これもまた、「あの事件の陰のヒーローを称える」という主旨に沿った描写だと思ったし、短い場面だったけど、非常に印象的でした。

それは、ナーンノーン山の裾野にある水田を耕す農家たち。なんの関係があるんだ?と思うかもしれないけど、実は彼らも大きなダメージを負ってしまいます。というのも、普段なら洞窟内に留まっている水を強制的に排水するわけで、ふもとにある水田は完全に水没してしまうわけです。

凄くいいなと思ったのは、その補償に関する場面。農家たちが集められ、「口座番号を書いて。補償金を払うから」と言われるのだけど、みんな「要らない」って言うんですね。作物はまた育てればいいけど、少年たちの命はそうはいかない。そのお金で、彼らを助けてあげて、と。僕としては、何もかもが想定していなかった場面だったということもあって、この場面に一番グッときたし、これこそまさに地味な場面だけど、メチャクチャ良いじゃん、と思いました。

あと、この映画そのものとはまったく関係ないのだけど、こんなことも感じました。それは、「やっぱり英語は必要だなぁ」ということ。確かに今の時代、翻訳機がメチャクチャ進化してるから、通常の状況においてはもはや英語を喋れたり聞き取れたりする必要はなくなってると思うのだけど、こういう緊急事態だったりトラブルの場面においては、そもそも翻訳を介している時間がもったいないし、直接のコミュニケーションが取れないことによるミスなどによるリスクもあるな、と。なんでそんなことを思ったかというと、この映画に日本人って出てこないんですよね。たぶん、洞窟ダイバーって、日本人にも技術を持った人はいるはずなんです。でも彼らは、「英語」というコミュニケーションの部分で選ばれてないんじゃないか、と思ったんです。もちろん、他に代用が利かないようなトップオブトップの知識や技術を持っている人であれば、そんな言語の壁は無いに等しいと思うけど、知識や技術が同程度なら、やっぱり英語でコミュニケーションが取れる方を選ぶよな、と。誰かを助けたいという気持ちを持っていて、そのための技術があっても、「言語」という点で土俵にさえ上がらせてもらえない、みたいなことはやっぱりあるんだろうなぁ、と思いました。

あの事件の裏側で何が起こっていたのか。救助する側の人間模様が存分に描かれる映画です。

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長江貴士
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