【映画】「JUNK HEAD」感想・レビュー・解説

とんでもねぇ映画だった。まさに”狂気”のたまものである。

まず、作品そのものではなく、外的な情報から紹介しよう。

この映画を作ったのは、本職が「内装業」という異色の人物。堀貴秀。映画は全編「ストップモーション・アニメーション」で作られている。これは要するに、人形のようなものを製作し、それを少しずつ動かしながら撮影していくことで、人形が動いているかのように見せるものだ。彼は、映画に登場するすべてのフィギュアを手作りしたという。観れば分かるが、その量、ハンパではない。公式HPに載っているだけでも21種類。しかも、1種類につき複数体制作されているものもある。合計の点数で言えば相当な量だろう。

また、そのフィギュアたちが存在するセット(と呼べばいいのか)もすべて彼が作っている。自ら行っている事業のために工場を持っているらしく、その敷地に組み立てたらしいが、この撮影のために100坪ほどの敷地を利用したという。凄すぎる。

さらに、アニメーション制作は完全に独学、すべてをたった一人でスタートさせ、エンドロールでは「監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽・絵コンテ・造形・アニメーター・効果音・VFX・声優」など、ありとあらゆるところに彼の名前がある。エンドロールに合わせて、少しだけメイキングの映像が出ていた。それを見る限り、最終的には他の人の手も借りて撮影しているようだが、「ほぼ一人で、独学で、7年の歳月を掛けて、14万コマというアニメーションを作り上げた」という、まさに狂気としか言いようのない作品なのだ。

そして、そういう外的な情報だけをなんとなく知った上で、どんなストーリーなのかよく分かっていないまま観に行った。

これがまあメチャクチャ面白かった!

ストーリーよりもまず、映像について言及しよう。僕はそこまで映像の良し悪しが分かるような人間ではないが、「ストップモーション」とは思えないようなリアルな動きに驚かされた。もちろん、「ストップモーション・アニメーション」というジャンル全体のレベルというのは年々上がっていると思うのだけど、僕の頭の中にあったイメージ(僕の中では「クレイアニメ」という方がしっくり来るのだけど)では、もっとフィギュアの動きがカクカクしている感じで、でもそれがクレイアニメだよなぁ、と思っていたから驚いた。正直、エンドロールでメイキングの映像が出るまで、かなりの部分をCGで補ってるのだろう、と思ってた。たぶんCGも使ってると思うのだけど、でもメイキングの映像を見る限り、フィギュアもセットも、まさにそこにあるものとして存在していて、フィギュアを動かすことであんなに緻密な動きが実現できて、さらにあれだけ複雑な構造(これは物理的に複雑ということ)の世界観を生み出せるものなのだな、と感心した。

そして、物語も面白いのだから、言うことなしだ。

物語の設定は、冒頭で文字で表示される。環境破壊によって、地上は人類が住めない環境になってしまう。そこで人類は、地下を開発しようと試みた。その作業員として人類は、「マリガン」という人工生命体を作り出す。しかしマリガンは自我を得て反乱を起こし、地下世界を乗っ取ってしまう。そんな反乱が起きてから1600年後の世界が舞台となっている。すでに人類は、遺伝子の改変により、永遠とも言える命を得る代わりに、生殖能力を失ってしまう。そんな折、地上では新種のウイルスが流行、人口の30%が失われた。生殖能力のない人類はこのままでは滅んでしまう。そこで志願者を募り、誰も手をつけることができないでいる地下世界の調査を行うことにした。その募集に志願した主人公は、地下世界へと送り込まれるが…。
というところから物語が始まっていく。

とにかく展開が非常によく出来ている。この物語では、人類とマリガンの言語は異なっているし、地下に下りた主人公は様々な事情から度々「声を発することが出来ない状態」に陥る。だから、音声でのコミュニケーションは限りなく少ない(ちなみに、声優を雇う余裕もないため、声のほとんどを堀貴秀氏が行っているのだが、「未知の言語」という設定になっていて、会話はすべて字幕で表示される)。声でのコミュニケーションがほとんどない状態で、どんな設定になっているのかもわからない地下世界の状況を理解させるのはなかなか難しいように思うが、観ていてまったく引っかかるようなところはなかった。もちろん、よく分からないところはよく分からないのだけど、描かれているストーリーを理解する上で問題になるほどではない。

未知の世界に足を踏み入れ、よく分からないながら放浪する羽目になる主人公と同じ視点でこの世界を体感し、不思議な冒険に連れて行かれるという体験はなかなか見事なものだと思う。

フィギュアを動かしているから、表情的なものはほとんどない。登場の多くは、ロボット的な外見だったり、ガスマスクのようなものをしていたり、フードを深めに被っていたりと、表情が見えなくていい工夫をしていた(ストップモーション・アニメーションで表情まで動かさないといけないとしたらエグすぎだろう)。しかしそれでも、登場人物たちの「感情」がちゃんと伝わるように作られてるから上手いなと感じました。ちょっとした首の動かし方とか、手足や身体の震え、視線の向け方など、細かな動きから、それぞれの登場人物がどんなことを感じているのかがちゃんと伝わるように作られています。言葉でのコミュニケーションが少ない分、なおのことそういう僅かな動きが重要になってくるわけですけど、それを見事に最後まで表現しきっているのは素晴らしいと感じました。

外的な情報が非常にキャッチーで、それだけが独り歩きしそうな作品ではありますけど、作品そのものもメチャクチャ面白いです。とんでもない人間がいるものだなと思うし、たった一人で初めて、ほぼすべてを一人でこなして、しかもCGではなくリアルの質感に徹底的にこだわった上で、これほどの作品が作れるのだという事実を知ることは、何か創造したいと考えている人の勇気にも繋がるのだろうと感じます。

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