サンタクロースの赤い服
みなさんはどうしてサンタクロースが真夜中に赤い服を着てやって来るのか、知っていますか?
これはクリスマスイブにサンタクロースに出会った少年の不思議なお話です。
…
「あ、お兄ちゃんたらまたにんじん残してるー。」
「ひろくん、何でもちゃんと食べなきゃダメよ。」
「そうだぞ、ひろし。他の国にはな、食べる物がなくて困っている人たちがたくさんいるんだぞ。」
…
今日はクリスマス・イブ。
ひろしくんは家族でレストランに来ていました。
綺麗に飾られたレストランは、家族連れや恋人達でいっぱいでした。
「…ちぇっ、せっかくのクリスマスなんだから、今日はそんなこと言わなくてもいいのに…」
ひろしくんはちょっとふくれっ面で窓の外に目を向けました。
大勢の人達が歩く通りには、ちらほらと雪が舞っていました。
家に帰ってからのことです。
「ねぇ、お兄ちゃん。今夜サンタクロースはどんなプレゼントを持って来てくれるのかなぁ? わたし、かなちゃんが持ってたようなステイショナリーセットが欲しいの。」
「なんだ、りえはまだサンタがいるって信じてるのか?あれはおとうさんだよ。ばかだなぁ。」
「いるもん!去年もプレゼントくれたし、わたし外国に住んでるサンタさん、この前テレビで見たもん!」
りえちゃんは怒って布団を被ってしまいました。
ひろしくんも仕方なくベッドに入りました。
「サンタなんて…いないよ…」
…
どのくらい眠ったことでしょう。
「コトコトコト…」
ひろしくんは、どこからか聞こえてくる物音に気がついて、目を覚ましました。
「やれやれ、近頃の家は煙突が無くて入りにくいわい…」
おじいさんの声です。
ひろしくんはハッとしました。
「もしかして…」
ひろしくんは音を立てないように起き上がり、そっとドアをすかして廊下の様子を伺いました。
「ミシリ…ミシリ…」
足音が近づいてきます。
ひろし君はあわててドアを閉めると、ベッドに潜り込みました。
「ギ…」
薄暗い中、誰かが入ってきました。
ゆっくりとベッドに近寄ってきます。
赤い服を着た白いひげのおじいさんです。
「うむ、いい子達だ…」
おじいさんは優しげな微笑を浮かべていました。
その時です!
「ねえ、おじいさんは本物のサンタクロース?」
ひろしくんが目を開けて尋ねました。
「ほほっ、おまえさん起きていたのかね?いやそれより、わしが見えるのかね?」
おじいさんは少し驚いて、でもゆっくりと尋ねました。
「うん!でも、ぼく本物のサンタクロースに会えるなんて思ってもみなかったよ。夢じゃないよね!!」
ひろし君は興奮して答えました。
「わしもわしが見える人に会えるとは思わなかったよ。ひろしくん。」
「えっ?サンタさん、どうして僕の名前を…?」
おじいさんは笑いながら答えました。
「ほっほっほっほっ…わしは何でも知っておるぞ、ひろしくん。おとといおまえさんが宿題を忘れて立たされた事とか、今日レストランでにんじんを残した事とか…」
「わぁ…」
ひろし君は恥ずかしくなって、思わず大声を出してしまいそうになりました。
それからおじいさんは、何か思い付いたような顔で尋ねました。
「どうじゃ、ひろしくん。せっかくだから少し手伝ってくれんかのう?」
ひろしくんは驚いた様子で聞きました。
「え、いいの?あ、でも外は寒そうだし…」
「ほっほっほっ、心配ない。」 おじいさんがパチンと指を鳴らすと、ひろしくんのパジャマはいつのまにかおじいさんと同じ赤くて暖かい服に変わっていました。
「では、行くとしよう。」
そう言っておじいさんが指を回した瞬間、二人は雪の降る夜空でトナカイの引くソリに乗っていました。
「ハイッ!」
おじいさんの掛け声と共にソリが滑り始めました。
ソリはぐんぐんスピードを上げます。
雪と街の灯がまるで流星のように流れて行きます。
「わぁ、綺麗だ!」
ひろしくんは思わす叫んでいました。
「下を見てごらん。」
おじいさんが言いました。
ひろしくんが首を伸ばして下を覗いて見ると…
「あれは同級生のりょうた!あいつ寝相が悪いなぁ。それからお隣の杏子お姉さん。一緒にいるのは恋人かな? …あ!あの女の人は赤ちゃんが生まれたんだね。赤ちゃんかわいいなぁ。…あの男の人は何で泣いているのだろう?…」
いろいろな人の姿が走馬灯のように浮んでは消えていきます。
そして…
「あ、あの子達は凄く痩せてる…草や…泥を食べてる!…ほんとに何も食べる物がない人っていたんだ…」
ひろしくんは、レストランでのおとうさんの話を思い出していました。
「ひろしくん」
おじいさんはひろし君に微笑んでウインクすると、ハンドベルを取り出し頭の上で振り鳴らしました。
『リンロンランロン リンロンランロン…』
澄んだ音が夜空に鳴り響いたかと思うと、ベルから色とりどりの光の玉が四方八方に飛び散って行きます。
「あれは?」
ひろしくんが尋ねるとおじいさんは
「贈り物じゃよ。日々の暮らしに不自由の無い人にはいたわりの心、子供達には夢や希望、病の人には健康、他にもいろいろあるがな。」
ひろしくんは驚いておじいさんを見つめました。
「わしがこうやって贈り物をするようになったのは…あれは、今からずっと昔の事じゃった。
その頃、地上には永遠の命を持ったとても優しい方がおった。
その方は人の心を悲しみや苦しみから解き放とうととても努力されておった。
が、力及ばず死んでしまわれた。
その方は何度も生き返って努力されておったのだが、一人の力では充分ではない事を知った時にわしの所へ来て
『私はこれから天に召されます。そこであなたにお願いがあります。この残った命を使って、これから生まれ来る人々がどの人も同じように生きられる世を作れるよう、全ての人に贈り物をして下さい。』
こう頼んでいかれた。
その思いに打たれてわしは、毎年その方の生まれた前の夜にこうして贈り物をするようになったのじゃよ。皆に少しでもその方の心を伝えたいと思ってな。」
おじいさんの話を聞いて、ひろしくんは今までのわがままだった自分が恥ずかしくなってしまいました。
ひろしくんはおじいさんに尋ねました。
「ねえ、おじいさん。ぼくにも何かできるかなぁ?」
おじいさんはにっこり笑って答えました。
「ああ、できるとも!今の気持ちさえ忘れなければ!」
ひろしくんも思わず、にっこり微笑んでいました。
「さあ、これで終わりじゃ。ありがとう、ひろしくん。わしはそろそろ帰ることにしよう。」
おじいさんはベルをしまいながら言いました。
「え、もう…また来年も来てくれるよね?」
ひろしくんは寂しそうに尋ねました。
「おまえさんは贈り物を受け取った。大丈夫じゃ。また来年も贈り物を受け取っておくれ。
それから、わしはいつでもひろしくんを見ておるぞ。」
おじいさんは笑ってそう言うと、ソリを滑らせ始めました。
「おじいさぁーん、ぼく頑張るからねー!」
ひろしくんはそう言いながら、飛び去っていくソリに手を振りました。
やがてソリは小さな光になって、西の空に消えていきました。
その時です!
突然、東の空が真っ赤になって、その中に真っ赤な朝日が昇り始めました。
「あっ!あの色はおじいさんが着ていた服の色と同じ…」
振り返ったひろしくんは、薄れていく意識の中で朝日におじいさんの姿を重ねていました。
「…おにいちゃん、おにいちゃん!ほらっ、プレゼントがあったよ!」
気がつくとひろしくんは、自分のベッドでりえちゃんに起こされていました。
「あーっ、これ欲しかったステイショナリーセットだぁ!やったぁ!やっぱりサンタさんっているでしょ、ねっ!おにいちゃん!」
りえちゃんの声を聞きながら、ひろしくんは昨夜の事をぼんやりと思い返していました。
「あ…ああ、そうだね…。夢じゃないよね…」
そしてひとり頷くと、元気よくベッドから飛び出していきました。
(おしまい)
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