見出し画像

雪の平原 ~あるクリスマスのこと~

街が夕闇に包まれ始めた、あるクリスマスのことだった。 

音もなく舞い降りた雪の精に、暗くなりかけた空を見上げた時 
遠い北の国にある教会の鐘の音が、辺り一面を優しく包み込んだ。 

街路樹にはいつしか淡い光を放つイルミネーションが灯り、 
高く聳えるビルや混雑する車の群れは、蜃気楼のように消えていった。

…ここは? 

…雪の平原… 

子供達の笑い声が聞こえる… 

振り返ると、肌の黒い子、白い子 
身なりの貧しい子、綺麗な服を着た子 
みんな一緒になって、楽しそうに雪で遊んでいた。 

突然、鈴の音と共に一台のソリが滑り込んで来た。 
ゆっくりと降りる人影…赤い服、そして白い髭。 

子供達は歓声を上げておじいさんの傍に集まった。 
おじいさんは子供達一人一人に笑顔で声を掛けながら 
頭を撫で、プレゼントを渡していった。

子供達は灯火に包まれ、笑顔の花を咲かせていく。 

プレゼントを配り終えたおじいさんは、こちらへ振り返った。 
刻み込まれた皺、そして吸い込まれるような深いブルーの瞳 。 
おじいさんの口元がゆっくりと動く。

「Merry Christmas!」 

その瞬間、目の眩むような光が、辺りを覆い尽くしていった… 

気が付くと、私は夕闇に包まれた元の場所に立っていた。 
雑踏、渋滞、高層ビル、何も変わっていない。 

ただ、降り始めた雪を除いては… 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?