『先生』と『錦 九天流』
桐加賀琉子の元在籍していたガーデン、多摩アームドスクール。
新興のガーデンゆえ、十分な「元リリィ」の教導官を揃えられなかったこのガーデンでは、リリィとしての経験のない人間が一部の教育を担当していた。
桐加賀琉子や七倉零依が学んだのもそんな一人。彼女たちにとって『先生』と呼ばれたその人が彼女たちに伝えた剣術にして戦闘術。
それが『錦 九天流』である。
元々、『九天流』は江戸時代に成立した剣術らしく、源流を一刀流に求めることができる。
特徴としては、
・徹底して身体能力を鍛える。
・戦闘術とは生存術。
・派手さより威力重視。
まず身体作りを重視するところから、逆に言えば誰でも辛抱して課題をこなせば初伝は得られる、という触れ込みでどちらかというと健康法の一種として栄えたらしい。
一方、教え方は地味で技に派手さがなく、いわゆる侍の箔付け用途としては人気がないため道場の経営は困窮を極めた、ともある。
さてなんとか現代まで生き残っていたこの『九天流』。
『先生』は、早々に「対人用剣格闘術」である「九天流」をそのまま伝授することを諦める。
対人用の技では、抗しえない、と。
九天流を「対ヒュージ用・リリィによる剣格闘術」に改造していく一方、元々流派の根幹を成すコンセプトである「戦闘術とは生存術」に磨きをかけていく。
まず自己の防衛、生存を果たす。それができてこそ、いずれ他者も救える、敵も斃せる。
そのため、まず徹底して基礎体力の向上、さらにレンジャー部隊並みの生存術を教育。
さらに、本来の九天流で重視された「型稽古」の多くを破棄。
なぜなら、相手が人間のサイズ・人間の骨格・人間の運動を想定して組まれた「型」など、対ヒュージには何の役にも立たないと判断したからである。
攻撃は、様々な姿勢から、狙った場所に狙った威力で当てることを目指す。
防御は、過度に「かわす」ことを求めず、CHARMを盾代わりに受け止め流す。
この方針で再度組みなおされた、「九天流・弐式」。転じて『錦 九天流』が完成する。
もちろん、それこそCHARMの扱いやスキルの活用など、元リリィでない『先生』には教えられない事が山とある。
だがー その教え子たちは、代わりに大切なことを学んでいる。
ヒュージ撃破数など、派手な活躍ではほぼ名が挙がらないが…
彼女たちの中で、まだ、「未帰還」になったリリィはいない。
多摩アームドスクール陥落の日。
『先生』は教え子たちを先に逃がし、最後まで囮として戦った。
琉子に秘蔵の野太刀「薄紫L9」を預けて。
『先生』の名は今も「未帰還者」のリストにある。
琉子は「薄紫」を「預かっているだけ」、と言っている。
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