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【文活8月号ライナーノーツ】北木鉄/普通について

この記事は、文活マガジンをご購読している方への特典としてご用意したライナーノーツ(作品解説)です。ご購読されていない方にも一部公開しています。ぜひ作品をお読みになってから、当記事をおたのしみくださいませ。

普通

コンビニで、どのサンドイッチを買おうか悩む大学生の男の子のリュックを、バゴ、っと殴って割り込む男の人がいた。コンビニを出た交差点で信号待ちをしていると、その男の人が電話をしている声が耳に入った。

「うちも、秋にまた採用しようかと思ってるんですけどね……。社内で検討中で……」

ある程度の役職らしき会話だった。

社会問題に対して、批評のツイートを何度も何度も何度もしていた人が、「今はこのことしか考えられない」と言っていた人が、3時間後には映画の感想を述べ、「泣けた」とツイートしていた。

服屋で、店員さんが二人の女性のうち片方にしか話しかけなくて、もう一人の女性がずっときょろきょろしていた。

自動車学校で路上教習をしていたら、「今ウインカー出さないでいつ出すの?笑」と鼻で笑われた。「今出そうとしていたのに」とだけは言わなかった。

別に大したことじゃない。

どれもこれも、些細なことだ。取るに足らない。取るに足らないのに、取ってしまう。取って眺め、恨めしげに握りしめ、なぜか手放さずに持ち続ける。

どこにでもあるごく普通の日常なのに、ごく普通の日常を過ごしているからか、些細なことが気になって振り回される。

過去のライナーノーツで、ちゃこさんがこんな一文を書かれていた。

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