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このよでいちばんはやく、かんたんに、おおきな世界をつくれるちからは、「想像力」。
こんにちは!ノベルメディア文活運営のなみきです。「文活」は月間文芸誌の発行で、みなさんの生活に毎月小説をとどける活動をしています。
月に1回書いているこの文活コラム。今日は「想像力」をテーマに書いてみようと思います。
「小説」という一種のメディアは、書き手も読み手も想像力をはたらかせて情報をやりとりします。作り手だけでなく受け手までも想像力が必要なのは、映画やアニメなど、ほかのメディアにない特徴です。
言い換えると、小説の文化とは「想像力で世界を圧縮し、物語を媒介としてやり取りすること」となります。ちょっと図にもしてみました。
この図を見た方の中には「小説を仲介する必要がないのでは?」と思う方もいると思います。作家から読者に、チョクで情報を渡せばいいじゃないか、という気がするからです。
それではなぜ、小説はあるのでしょうか?
それは、想像力を使って情報をやり取りすると、「ローコストで世界をつくれる」「個人の価値観や経験を投影して共有できる」という「いいこと」があるからです。
ローコストで世界をつくれる
『このよで いちばん はやいのは』という科学絵本があります。この世界にあるいろいろな「はやいもの」を、子ども向けに紹介している絵本です。
絵本は、最初のページで遅いものが、だんだん早いものが紹介されていきます。カメからはじまって、うさぎ、チータなどの動物。新幹線や、「鐘の音」などの非生物。
音、地球の自転、人工衛星、公転、そして、光。
おとなのぼくたちはここで、「光がいちばんはやい」と考えを止めてしまいますが、絵本のページはまだ続きます。
だが、そのひかりより
もっと はやいものがある。
それは にんげんが あたまのなかに なにかを おもいうかべたり
かんがえたりする ちから、そうぞうりょくだ。
うちゅうの はてにある ほしにも
なんびゃくねんさきの みらいの くにへも
いなかの おじいちゃんや おばあちゃんの いえへも
にんげんは そうぞうりょくの つばさを つかえば
いっしゅんのうちに いくことができる。
そう、このよで いちばん はやいのは
わたしたちの そうぞうりょくだ。
――『このよで いちばん はやいのは 』(福音館書店) p.26.27より
すてきな結末ですよね。「そうきたか!」と一本とられたような心地がして、そのあと、ちょっと感動。はじめて読んだとき、そんな気分になりました。
「はやさ」と同様に、「おおきさ」や「おもさ」も、想像力を使えば、いくらでもつくることができます。(高さ700kmのロボットとか、重さが5万トンある角砂糖とか)
つまり想像力で、人は世界をどんなにもひろく、おおきく、あざやかに拡張することができるのです。
「世界を拡張する」ことは、字面ほど大それたことではありません。
たとえばふだんの生活でも、電車で出会ったイケメンとの大恋愛や、植物に水やりをしたときに返してくれるお礼など、誰しも現実世界とは別の世界を頭の中で拡張(妄想とも言えますが)をしているのではないでしょうか。
しかも、想像力で世界をつくるのは、しごくローコストに行えます。お金も時間も体力もいらず、必要なのは、自分の頭だけ。どんな人でも想像力を使えば、現実世界からアップグレードされた世界を豊かに生きることができるのです。
個人の価値観や経験を投影して情報を共有できる
「心地いい気温」という表現を聞いて、みなさんはどれくらいの気温をイメージしますか?
だいたい平均は23~24℃くらいなのではないでしょうか。ぼくは暑がりなので、21~22℃くらいを思い浮かべます。ぼくの母親はぼくを超える暑がりなので、たぶん20℃くらいでしょう。(そのためうちの実家は常にめちゃくちゃ寒いです)
ほかにも「美人」と聞いて思い浮かべる像が違ったり、「ハワイ」と聞いて実際訪れた人とそうでない人にイメージに差があったり、「友」や「恋」など自分の経験によって感覚が変わったり。
個々人それぞれで違う価値観や経験に基づいて、ひとつの情報からそれぞれの脳内に最適なイメージを作りだす。想像力にはそんな力があります。
***
想像力は、社会全体に対して、いい影響を与えることもあります。
おおぜいの人に情報を伝えるときに「きれいな花」を画像で伝えると、それぞれの好みによって、「別にきれいだと思わないし」とか「他の種類がすきだな」とか、「花のきれいさ」を情報として受け取れない人が出てきてしまいます。
しかし、その情報をテキストまたは音声で伝え、情報を受け取るときに想像力を仲介する場合、100万人の人は100万通りの「花のきれいさ」を思い浮かべることができます。
また、サピエンス全史という本では、わたしたちホモ・サピエンスが地球上で繁栄した理由(めちゃくちゃスケールおおきい話ですね…!)が「虚構を信じられる想像力」にあると論じられています。
例えば「善行をすれば天国へ行ける」という宗教のフィクションのおかげで、社会で暮らすひとびとが個人の欲望だけに因われない行動をできる。「あそこはもともと我々の領地であった国だった」というフィクションを国王が広めれば一致団結して隣国に戦争をしかけられる。
わたしたちが集団として協力しあえるのに、フィクションと、それに伴う想像力はおおきな役割を担ってきたのです。
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・「ローコストで世界をつくれる」
・「個人の価値観や経験を投影して情報を共有できる」
想像力には、この2つのちからがあることを書いてみました。
この恩恵のおかげで、小説は、読者の世界の奥行きを広げ、生活を豊かにするメディアになります。われわれ文活も、その力を信じて、毎月文芸誌で小説をおとどけしています。
3月号も心を込めてつくっているので、ぜひぜひたのしみにしてくださいね。
P.S.
この記事で紹介した絵本『このよで いちばん はやいのは』は引用部分のあとのラストがまた最高なんです。
さあ、このほんを よみおわったら しずかに めをつぶってみよう。
最後のページはこの文からはじまります。これ以上は引用しすぎかなあと思うのでリンクを貼っておきます。気になった人はぜひ買ってみてください…!
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