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【文活10月号ライナーノーツ】なみきかずし「ふくろう」

この記事は、文活マガジンをご購読している方への特典としてご用意したライナーノーツ(作品解説)です。ご購読されていない方にも一部公開しています。ぜひ作品をお読みになってから、当記事をおたのしみくださいませ。

将棋がすきだ。ざんこくだから。

駒の種類も並べ方も、すべて平等に決まっていて、先後のほかには運も介在せず、一手一手、お互いに手を指していく。それだけ。

勝ちは何の疵もなく勝ちだし、もっといえば、負けは何の言い訳もできない、ただの負け。

ぼくのように不器用で、負けず嫌いで、きっとほんのすこし、嗜虐的な将棋指し達は、その混じり気ない勝ちがたまらなく欲しくて、そのゲームに手を出している。

☖☗☖☗☖

ところがひとたび盤上を離れてみると、勝ちやら負けやらなんてものはあたかもないような顔をしながら、みんな世間にのんびりと暮らしている。運動会で手をつないでゴールするこの時代で、勝ち負けをはっきりと示すことがタブーのように眉をひそめられる。

あんなにざんこくに勝ち負けのやり取りをしていた将棋指したちだって、ゲームが終われば一緒に棋譜を並べながら、どこがよかったわるかったと談笑しだす。

金子みすゞが「みんなちがってみんないい」と詩に書けば、
SMAPは「世界に一つだけの花を咲かせよう」と歌う。

ぼくたちは、自分が負けないための絶対手段として、「そもそも負けのない世界」への合意を形成しながら、一生懸命にお互いを認め合おうとしている。

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ただし、世界に勝ち負けは「はっきりとある」。ぼくたちは腹の底でうっすらと、隠し持っている秘密のごとく、誰が勝って誰が負けているかを知っている。自分が誰に勝って誰に負けているかを、気にしている。

オリンピックには金メダルがあるし、受験には合否がある。隣のデスクの同僚が自分より給料が高ければ、向かいの駐車場にある車は自分のものよりも安い。そうしたいくつかの総合判断をもとにして、いわゆる「人生勝ち組 / 負け犬」のような概念も、たしかにある。

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今回の小説は、そんな勝ち負けの法則を、森の中で狩る/狩られるの立場にある、ふくろうとねずみを通して描いた物語である。

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