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【文活7月号ライナーノーツ】上田聡子|物語のサイズについて/創作こぼれ話

この記事は、文活マガジンをご購読している方への特典としてご用意したライナーノーツ(作品解説)です。ご購読されていない方にも一部公開しています。ぜひ作品をお読みになってから、当記事をおたのしみくださいませ。

私は、原稿用紙10枚くらいの物語をnoteで書くのが好きで、それは自分がWEBで物語を読むときのひとつのちょうどいいサイズだと思っているふしがあります。

いままでも、10枚――4000字前後の物語をたくさん書いてきて、それらはすべて「ずっと待つよ」という私のマガジンに収まっています。このサイズの物語には、長編のようなスケールはないかもしれません。けれどこのサイズの物語がなにもできないかといえば決してそうではなく、いくらでも技巧をこらして書くことが可能だし、書ける内容も案外多いという実感を持っています。

文活7月号に寄せた短編は、文活の運営の方から「1000字~4000字程度で」というご依頼がまずあり、書き始めたものでして、「わ、好きなサイズの依頼が来た」と嬉しくなりました(笑)というわけで、この短編も4000字に少し満たないサイズで書き終えています。

noteという場所は不思議で面白いところで、さまざまな方が入れ替わり立ち替わり私のページを訪れてくれます。仕事ざかりの方が多い印象があるので、文庫本サイズの300枚以上の小説がふだんなかなか読めないという方もいらっしゃるかもしれません。

でも、4000字の小説ならば、朝と夕方の通勤の電車の中、仕事の昼休憩中、就寝前のリラックスタイムに、ほんの5分程度スマホの画面に目を走らせるだけで読んでしまえます。それで、何らかの感情や想いを、感じることができるって、素敵なことではないかと私は思うのです。

また、4000字のサイズなら、小説を書く初心者の方でも、手も足も出せない分量ではありません。私自身、1000字程度の短編ともいえない掌編からnoteを書き始め、10枚、30枚、50枚、100枚、300枚と書く分量を増やしていきました。

noteで書いた連載小説を、PHP文芸文庫から「金沢 洋食屋ななかまど物語」として2020年に加筆して出版できたのは本当に僥倖といっていいことでした。でもそれも、2014年に書き始めた1000枚の掌編から始まっています。

スマホが普及して、みんなWEBで文字を読むようになりました。もちろん、出版社を通して発売される文庫や単行本の文化の火が消えることはないでしょう。でも、日常のすきま時間でさくっと読める、WEB短編はこれからもっと需要が増えていくのではないか、私はそう思っています。

私は自分のnoteアカウントを、自分自身が編集する雑誌兼文芸誌だと思っていて、短編マガジン「ずっと待つよ」をはじめとして、ブックレビューのマガジン「文芸世界のお天気予報」、暮らしとごはんのマガジン「食べて笑って四季暮らし」などをそろえて、私のページに立ち寄ってくれる人が、毎日のなかでものを読む楽しみをちょっとでも感じてくれたらと思って書いています。

さて、7月号短編「着替えのときまでもうすぐ」についてお話します。

この短編は、親になることを迷っている女性の一人称で物語が進みますが、最後に「あること」が起こります。文活運営のなみきさんとよもぎさんからは「くらってしまった」というお言葉をいただいていて、私自身も少しセンシティブなラストにしたことを、どう読まれるのか気になっている箇所なのです。

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