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【文活7月号ライナーノーツ】みくりや佐代子「帰郷」
この記事は、文活マガジンをご購読している方への特典としてご用意したライナーノーツ(作品解説)です。ご購読されていない方にも一部公開しています。ぜひ作品をお読みになってから、当記事をおたのしみくださいませ。
産休を目前にして仕事の引継ぎが立て込んでいます。リモートワークからリアルな出社になったことで、一気に生活の回転数が速まったようで一週間があっという間に過ぎていきます。そんな日々のなか、ふと平日の夜や休日の朝に、ぽさっとした気持ちになります。
ぽさっとした気持ちとは。うまく説明できないのだけど、なにか自分の知らないこと(しかもそれは些細なこと)に気づいて突然一人置いてけぼりにされたような気持ちです。座布団のようなやわらかい地面に身を落とされたような気持ち。
なんだそれはと思いますよね。そういうときは例を挙げるのがいちばん。
たとえば。先週の土曜の朝、夫に「えっ、クーラーつけずに寝たの?」と聞いたとき。「寝れたよ。窓開けたら全然涼しかった」と返ってきて、ぽさっとなりました。「あ、この人は窓を開けて眠れるんだ」と。
普段、夫は単身赴任なので私は子供ふたりと寝ます。どんなに暑くても窓を開けるという選択肢はありません。住まいは2階だし、女・子供だけで窓を開けて眠るのは不用心だから。そう思って窓を閉めてクーラーや扇風機で眠るのが普通でした。
だから夫がけろりとした顔で「窓を開けて寝たよ」と言った時、わたしは呆気にとられて、ぽさっと落下しました。「いいなあ、ずるいなあ」に近い、なんというか、少し寂しい不思議な感情。いえいえ、ジェンダーの議論がしたいわけではないのだけれど。
文活を楽しんでくださっている皆さん、この夏をいかがお過ごしですか。
しょっぱなから不可解な話をしてごめんなさい。たまたまこれが私の「近況」でした。
ライナーノーツを書くのも2度目。今回の物語は「帰郷」。親友の死(ネタバレ!)を受け入れられぬ青年のお話です。
今回の物語で描きたかったのは「親友の死」よりもむしろ「地元」――「帰る場所」についてでした。
みなさんには、帰ろうかどうか迷っている場所はありますか?
かつては確かに愛していた、けれど今どうかと言われると少したじろいでしまう、かと言って決して忌み嫌うわけではないそんな場所が。
好き?たいせつ?帰りたい?……そう尋ねられた時に一瞬言葉に詰まってしまうそんな場所が。
たとえば私にとってそれがnoteだったのです。
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