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〈6〉「スマホが持てない人」をどう支えるか

※文化時報2021年3月22日号の掲載記事です。

 刑務所から出所するとスマートフォンが持てなくなる―。そんな実態があることをご存知だろうか?

 規則があるわけではなく、持てる人もたくさんいる。持てないのは、頼るべき存在がいない人のことである。

 罪を犯して身柄を拘束されると、当たり前だがスマートフォン料金の支払いに行けない。家族が支払いをすれば問題はない。でも、代わりをしてくれる人がいなければ、未払いのまま強制的に解約される。何年後かに出所した時は、その事実が残っているので新たな契約ができなくなる。

 今のご時世、スマートフォンがなければ職に就くのも難しい。「それくらい我慢すれば」と思う人もいるかもしれないが、本人にとっては死活問題である。刑期を終えて社会復帰しても、「社会的制裁」はさらに続くのである。

 「反省は一人でできるが、更生は一人ではできない」と、更生保護の世界ではよく言われている。ただし、その更生保護ですら対象外の人もたくさんいる。それではマズイと、2009年からやっと国が動き出した。「地域生活定着支援事業(現・地域生活定着促進事業)」が厚生労働省管轄で始まった。「司法と福祉の橋渡し」という役目を担う。

 具体的には、刑務所などから出所する人の住居を探し、医療や福祉サービスが利用できるように環境を整えるのである。一歩進んだのは間違いないが、利用できるのは高齢者や障害者に限られている。周知も徹底されていない。まだまだ課題は山積みだ。

 教誨(きょうかい)師や保護司をされている読者も多いと思う。ボランティアでされる立派な仕事だと敬意を払う。ならば、もう一歩踏み出してはいただけないだろうか?

 教誨師は刑務所などの関わりで、保護司は保護観察処分を受けている人への関わりのみになる。もっと手を差し伸べてほしいのは、頼るべき人がない状態で釈放される人々である。象徴的に「スマホが持てない人」と呼ぼう。

 立ち直ろうにも「前科者」というレッテルが重くのしかかっている。宗教者が率先して支えるのはどうだろうか? (三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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