避難民受け入れの先に
※文化時報2022年3月18日号に掲載された社説です
ロシア軍の侵攻で故郷を追われたウクライナ人が、続々と隣国へ逃れている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、避難民の数は11日時点で250万人を超えた。ロイター通信は、ポーランドなど国境を接する東欧諸国の受け入れが、限界に達しつつあると報じている。
こうした事態になることを見越していたのだろう。岸田文雄首相は2日、ポーランドのモラウィエツキ首相との電話会談で、第三国に避難したウクライナ人を日本に受け入れると表明した。記者団には「人道的な観点から対応していく」と語り、その後、実際に受け入れも始めたという。
新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の流入を防ぐためとして〝コロナ鎖国〟を惰性で続けた岸田政権にしては、迅速な対応である。もろ手を挙げて賛成したい。ウクライナへの連帯を示すことになるのはもちろん、ハードルの高い難民認定制度への問題提起にもなる。
避難民と難民は、必ずしも一致しない。避難民に法的な定めはないが、難民には条約上の定義があり、人種や宗教、政治的意見などを理由にした迫害から他国へ逃れた人々を指す。
日本はこうした「条約難民」への支援が不十分だとして、国際社会から批判されている。2020(令和2)年の難民申請者は3936人だったのに対し、認定者はわずか47人だった。支援団体や弁護士らは、他国に比べて認定対象者の幅や迫害の解釈が狭く、立証の基準も厳しいと指摘する。
法務省は「申請理由が条約上の理由に該当するとは思われないものが相当数ある」として、不法滞在や犯罪歴のある申請者がいることを強調するが、これでは偏見を助長していると言わざるを得ない。
難民問題に対する後ろ向きの姿勢は、これまでの避難民への支援にも影響していた可能性がある。
昨年2月に国軍のクーデターが起きたミャンマーからの避難民は、在留期間を原則6カ月に限った。昨年8月にイスラム主義組織タリバンが実権を掌握したアフガニスタンに関しては、短期滞在(90日)から就労可能な1年の在留資格に変更する際、身元保証人を付けるよう求めた。
ウクライナからの避難民にも今後、こうした不安定な条件を付けるようでは、とても支援が追い付くまい。政治主導で特例措置を設ける必要があるだろう。
そうすると、他国からの避難民や難民申請者にも当然、処遇を波及させる必要がある。ウクライナ人以外を差別するわけにはいかないからだ。
シリア内戦で難民・移民の受け入れを拒んだり消極的だったりした欧州諸国が、ウクライナ戦争では積極姿勢に転じている。どこか人種差別のにおいがするこのような対応と、日本は一線を画し、いかなる国からも避難民を受け入れるべきだ。
それには、あらゆるいのちを大切にし、差別問題とも正面から向き合ってきた宗教者の視点が欠かせないだろう。
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