【能登半島地震】門徒集う「プレハブ寺」珠洲市で再建目指す
※文化時報2024年10月22日号の掲載記事です。
能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県珠洲市では、いまだ崩落した道路や倒壊した建物が目立つ。さらに9月下旬の豪雨の影響で、今月13日現在も一部地域で断水が続いている。観光名所の見附島のほど近く、同市宝立(ほうりゅう)町にある真宗大谷派往還寺(おうげんじ)(松下文映住職)は、元日の地震で本堂が全壊。公費解体を行い、8月には90㍍ほど離れた場所に小さなプレハブの寺院を建てた。少しでも手を合わせられる場所を作った住職は、さらなる再建を見据えている。(松井里歩)
坊守のさち子さん(75)によると、元日は東京に住む息子一家が数年ぶりに帰省していた。庫裏で大きな揺れに見舞われ、入り口から飛び出たところで尻もちをついた。振り返ると、大量の砂ぼこりとともに本堂が真っ二つに崩れ落ちた。本堂と一部がつながっていた庫裏も、ガラス窓や壁が損壊した。
そのころ、松下住職は法要で門徒宅を訪れていた。道路の陥没などで自坊に帰ることができず、電話もつながらないまま。戻れたのは5日たってからだった。
一方、さち子さんらは津波が来るとの情報を聞き、宝立小中学校まで避難。往還寺までは津波が来なかったが、管理する兼務寺院は、跡形もなく流されてしまったという。
4月には市に公費解体の申請を出し、7月に本堂と庫裏、兼務寺院が解体されて、境内は更地になった。奇跡的に運び出せた本尊の阿弥陀如来像や掛け軸、荘厳などを安置するため、プレハブを2棟購入。一家は近くの仮設住宅に入居した。
松下住職は、葬儀や法話などの用事がない限り毎日プレハブ寺院に滞在。市内の寺院関係者や、同県七尾市や金沢市などから訪れる門徒を出迎えている。
さち子さんは「自宅が被災して仏具がない方でも、ここに来れば手を合わせられる。ご門徒さんのよりどころがあれば、少しでも心の傷が和らぐかもしれない」と話す。
息子は東京都町田市で同じ名前の往還寺を建てており、地元の往還寺を継ぐ見込みは小さい。地震によって人口減少に拍車がかかっていることも懸念材料だ。松下住職は「珠洲市や輪島市はもうお手上げ」と言いながら、それでも「やはりご本尊は置いておきたいし、小さくても寺があれば、息子も帰ってこられる」と再建への意欲を見せる。
9月には、宝立小中学校の前にある約400平方メートルの空き地を譲り受け、登記も行った。周囲には大規模な損壊を受けた住宅がまだ残っており、息子らを含む家族での話し合いもこれからのため、どんな状態で再建できるかはまだ分からない。それでも本山の共済金などを資金に、歩みを止めないつもりだ。
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