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宗教者から学び 訪看開設

※文化時報2022年1月25日号の掲載記事です。

 「終末期医療の現場には、看護師らによる傾聴が欠かせない。宗教者から学びたい」。そう話すのは、緩和ケア病棟や介護施設で長年勤務してきた看護師の鵜飼亜由美さん(51)。患者の医療と生活に寄り添いたいと、1月4日に訪問看護ステーション=用語解説=「仁」(京都市山科区)を立ち上げた。関西臨床宗教師会が行う傾聴移動喫茶「カフェデモンク」に参加するなど、宗教者との協力を模索している。(高田京介)

中村仁一氏の遺志

 鵜飼さんは、京都初の高齢者施設として仏教者らが設立した社会福祉法人同和園(京都市伏見区)などで終末期医療に携わった。当時、同和園附属診療所の所長だったのが、『大往生したけりゃ医療とかかわるな』(幻冬舎新書)がベストセラーとなった故・中村仁一医師。点滴や胃ろうをしない看取とりを提唱していた。

 「患者さんの生活や、生きていく目的を大切にしたい」。そう考え、独立して訪問看護ステーションを開設することを決意。肺がんになった中村医師も「自分が生きている間に開設してほしい」と願った。

 中村医師は昨年6月に死去。開設は間に合わなかったが、中村医師の名前から一字をもらって訪看に「仁」と名付け、生前使っていた机や椅子を遺族から譲り受けた。

 鵜飼さんは「患者一人一人にさまざまな形で関わっていきたい」として、「仁」が医療と介護を橋渡しする拠点になることを目指している。「訪看が橋渡しすれば、ケアマネジャーら他の関係者が利用者に関わりやすくなる」と言う。

鵜飼さん写真①

訪問看護ステーションを立ち上げた鵜飼亜由美さん

思いに向き合う

 開設直後から、「仁」は在宅のがん患者2人と精神疾患を抱える2人へのサービスを開始した。初日の1月4日には、鵜飼さんがケアマネジャーらと共に、利用者の岸見房翁さん(77)宅を訪れ、打ち合わせを行った。

 岸見さんは、ステージ4の肺がんで闘病しながら、同和園の運転手として嘱託勤務を続けている。同僚だった鵜飼さんの勧めで受診し病気が判明。「仁」の開設を知り、利用を決めたという。

 鵜飼さんは、投薬に伴う入院の日程を調整した後、岸見さんの趣味である登山の話に耳を傾けた。「家族の悩み事まで聞いてもらい、安心することが増えた。傾聴の取り組みが広がってほしい」と、長女の鈴木幸子さん(51)。その傍らで、岸見さんは「『病院に行け』と口うるさく言うのが増えた」と笑った。

 鵜飼さんは「利用者本人と家族の状況はさまざま。訪問看護だと、それぞれの思いや悩みに向き合える」と話し、「『この人にならしゃべってもいいんや』と、思ってもらえる雰囲気を大切にしたい」と語る。

傾聴の重要性知って

 傾聴が必要なのは、患者や家族だけではない。「患者からの死に関する相談で、心を病む看護師を見てきた」と鵜飼さんは明かし、医療従事者が治療と看取りのはざまで葛藤していると指摘する。

 鵜飼さん自身も悩みを抱えながら、関西臨床宗教師会が行う傾聴移動喫茶「カフェデモンク」に参加。業務過多の現場や、十分なケアが行えないジレンマについて相談した。そこで出会った臨床宗教師たちが、悩みをただ聴く姿勢を目の当たりにして「胸のつかえが取れた」と言う。

 「仁」でも、臨床宗教師による協力を視野に入れており、「看護師や介護士の悩みも聞いてもらいたい。宗教者にはもっと、傾聴の必要性を社会に発信してほしい」と呼び掛けている。

【用語解説】訪問看護ステーション
 患者の住み慣れた自宅や施設などで医療を提供し、生活支援を行う事業所。看護師や保健師、介護福祉士などが所属し、外部の医療・介護従事者とも連携する。「訪看」と略称で呼ばれることもある。

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