【能登半島地震】お寺の掲示板で自他奮起「生き延びるしかない」
※文化時報2024年1月26日号の掲載記事です。写真右が市堀玉宗住職。
最大震度7を観測した1日の能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県輪島市門前町に立つ曹洞宗興禅寺が、「負けてたまるか‼」としたためた墨書を掲示板に張り出し、周辺住民を励ましている。「人間は生き延びていくしかない」。市堀玉宗住職(68)は力を込める。(佐々木雄嵩)
「前を通るたびに勇気をもらっている」。半壊した自宅の様子を見に来た男性は、市堀住職の力強い筆致を見つめ、そう語った。
興禅寺は2007(平成19)年の地震で本堂が全壊。再建した本堂は今回、倒壊を免れたものの、境内の灯籠や仏像が倒れ、断水が続いている。息子の孝宗さんが住職を務める永福寺(輪島市)の被害はもっと大きかったといい、難を逃れた寺族が興禅寺に身を寄せている。
市堀住職は「負けてたまるか‼」に、住民を励ますだけでなく、自らを奮い立たせる意味を込めた。「先が見えない不安や恐れは、誰にでもある。だからこそ、その先に希望や期待を持って生きていく必要がある」
40年前、石川県に移ったときに知った言葉がある。「能登はやさしや土までも」。地域で暮らすうち、人々の人情の深さや心の豊かさが、能登という自然のたまものであると実感できた。
だが、優しかった土が牙をむいた。「愛していた能登が今、震災という地獄にある。自然を恨むことはできないが、それでも苦しい」。諸行無常という仏教の教えでは、簡単に割り切れなかった。
「何十年も偉そうに説法してきたが、自分の弱さ、愚かさを見せつけられた思いだ」
市堀住職は今回の地震が、人口減少に拍車をかけるのではないかと危惧している。参拝者や檀家があってこその寺であり、寺だけ復興しても意味があるのだろうか、と弱気になることもある。
それでも、「あるがままに、ときに優しく、ときにたくましく。人間は自己の弱さや愚かさを克服しながら、柔軟に生き延びるしかない」。「負けてたまるか‼」の掲示板を前に、市堀住職はこう語った。
「寺は続ける。ここで最後の一人になっても」