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【能登半島地震】門徒集う場の回復へ 真宗大谷派・木越渉宗務総長に聞く

※文化時報2025年1月1日号の掲載記事です。

 真宗大谷派の木越渉宗務総長は文化時報の新春インタビューに応じ、発生から1年となる能登半島地震からの復興に向け、「門徒が集う場の回復」を目指す方針を明らかにした。2025年以降に各教区で行われる宗祖親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃(きょうさん)法要と並ぶ宗門の最重要課題として、能登支援を位置付ける。(高田京介)

仏教的・大乗的支援

 《能登半島地震では、能登331カ寺、新潟274カ寺、富山172カ寺、金沢143カ寺など10教区969カ寺が被災した。特に能登教区は本堂74カ寺、庫裏69カ寺が大規模な被害を受けた。宗派は宗務役員=用語解説=を継続的に派遣し、寺院や門徒宅の片付けなどを行っている》

――昨年元日に能登半島地震が発生し、宗派にとって大きな打撃となりました。

 「まず、元日の地震と9月の豪雨災害で被災した全ての方にお見舞いと、現地の一日も早い復興を念じ申し上げます。仏法をよりどころに生活を再建しようとしている方々に、大いなる感動を覚えています」

 「昨年の宗会(常会)の演説で『本願念仏のみ教えに出遇(あ)うことのできた身としての仏教的・大乗的支援』を申し上げました。真宗の土徳が根付く能登の地で再び念仏の声が響き渡るよう、内局・宗務役員一同、息の長い支援に力を尽くします」

――弊紙は昨年1月4日から記者が継続的に現地取材を行ってきました。宗派や有志の支援活動には頭が下がります。今後、どんな支援が必要でしょうか。

 「例えば、文化時報や地元紙の北國新聞で取り上げられましたが、石川県珠洲市宝立町の往還(おうげん)寺がプレハブ寺院を建立しました。地震で本堂が全壊する中で、門徒の集会場として再出発しています」

 「北陸ではこの地域特有の大きな伽藍が多く残っています。再建を目指す際には、小さくても、門徒が集える場を宗派として整えていくことが必要だと考えます。また、現場の声も聞きながら亡くなられた方々をしのぶ追弔会の実施も意義深いことかと感じます」

 「お寺をどうしようか考えている住職を、いかにサポートしていけるのか。独り善がりの支援ではなく、現場に寄り添い、一緒に考えていきたいと思います」

 《石川県能登地方は過疎化が叫ばれて久しいが、地域のコミュニティーとしての寺院は今も機能している。木越宗務総長は馳浩石川県知事と8月初めに面会し、寺院の役割について説明。馳知事は同23日、地域コミュニティーとしての寺社の再建に最大1200万円の補助を行う方針を発表した》

――関西圏では北陸をルーツに持つ方が多いです。北陸のお寺の姿は全国でもご存じの方が多いのではないでしょうか。

 「知事には、能登では念仏し大切な教えを聞く集会場として寺院が機能していること、公的な場であると伝えました。知事は国会議員時代に門徒として『国会議員同朋の会』に所属していたこともあり、能登の伝統文化が崩れていることを認識いただいたと感じます」

(画像:ボランティア支援センターの開所式で支援を誓った木越宗務総長
=2024年2月1日、石川県七尾市の能登教務所(佐々木雄嵩撮影))

 「それと同時に、宗派僧侶をはじめ宗教者としても、宗教法人として寺社が存在する意味を考えなければなりません。非営利団体が公に営をなすということで法人格を得ています。真宗大谷派の所属寺院においても、社会からの大きな期待を認識すべきです」

本山から教区へ

 《本山は2023年、慶讃法要を完遂した。今年は大阪教区や東京教区、北海道教区などで法要が営まれる。木越宗務総長は、能登支援とともに各教区の大法要執行を「最重要課題」に挙げる》

――能登支援とともに、各教区で勤まる慶讃法要を「最重要課題」に掲げました。

 「次の蓮如上人550回御遠忌法要までの四半世紀、大法要がありません。参務時代に慶讃事業の準備で教化施策に携わり、コロナを経て慶讃法要執行内局として場の持つ力を改めて感じました。慶讃法要では御影堂と阿弥陀堂での両堂同時の勤行などを通じ、境内のにぎわいを表現できました」

 「毎年の御正忌報恩講などでは、各法要の前であいさつに立ち、法要後には御影(ごえいいどう)堂門で内局総出で見送りを行っています。『お寺参り』が大事だということを伝えると同時に、ご門徒から『また、お参りします』という頼もしい声をたくさんいただきました」

 「コロナ後、行事を縮小した状態のままにしている寺院が多いですが、本願念仏のみ教えをいただき直す場として、各教区や別院の慶讃法要に携わっていただきたいと思います」

行革、議員の質を問う

 《木越宗務総長は昨年9月、宗議会与党会派・真宗興法議員団代表に再任した。懸案の行財政改革などが争点となった選挙戦は、ほかの2氏と接戦となった》

――興法代表選は厳しい結果となりました。宗務行政の展望をお教えください。

 「行財政改革については、21年の内局案を持って全国の教区を巡回してさまざまな声をいただき、翌22年に立ち上げられた検討委員会から昨年春、報告書を受けました。行革の中心になければならないのは、同朋会運動=用語解説=です。報告書には、同朋会運動が信仰運動として成立してきたことが明確に盛り込まれています」

 「代表選では、この報告書が宗務総長である私に対するものだとお伝えしました。今回の結果は『お前がやれ』という議員の声を得たと受け止めています。具体的な内容についてはお答えを差し控えますが、内局案といった形でなく優先順位を付け、早期実現を目指します」

――行革に関連して、12月に宗派初の決算審査に特化した宗会(臨時会)が開催されました。

 「歴史的に見ても宗務行政で一つの事業を立ち上げようとすると、たとえば『教化センター』のように、長い時間がかかります。やはり議員一人一人が関心事に対して、宗会の質問戦などで政策を訴え続けることが必要です」

 「決算の審査は現行法規にのっとった形で開催されましたが、課題もあります。よりよい議会運営を議員と共に行って参ります」

興法成立50周年へ

 《真宗興法議員団は10月21日、成立から50周年を迎える。先の教団問題=用語解説=で保守派、改革派の対立をこえようと結成され、長らく宗議会の圧倒的多数を占め、宗務行政のかじ取りを担ってきた》

――宗議会議員の任期満了となる今年は、興法成立から50周年を迎えます。

 「興法は政策調査会を持ち、所属議員が各部会に分かれて政策の方向性を協議しています。政策調査会との連携を公約に掲げ代表になったこともあり、議員一人一人が持つ関心を施策に反映できるよう、各部会に参務を入れて意見交換ができるようにしました」

 「興法は、宗務行政のかじ取りを長年担ってきました。50周年を迎えるに当たっては、その歴史を振り返りながら、責任与党としてこれからも宗門の未来を絶えず考えていきたいと思います」

 木越渉(きごし・わたる) 1957(昭和32)年4月、金沢市生まれ。金沢教区光專寺(石川県かほく市)住職。大谷大学大学院修士課程修了。教区会議員などを経て宗議会議員5期。里雄康意内局や但馬弘内局で参務を務めた。但馬前代表の辞任に伴い、2021年秋に真宗興法議員団の代表に就任し、宗務総長に指名された。24年9月、代表に再任。父の樹(たつる)氏も元宗務総長で、弟の康氏は大谷大学前学長。幼少時代は米・カリフォルニアで育った。 

【用語解説】宗務役員(しゅうむやくいん=真宗大谷派)
 宗派行政を担う宗務所などで勤務している職員。ほかの宗派では宗務員、職員などと呼ばれる。

【用語解説】同朋会運動(どうぼうかいうんどう=真宗大谷派)
 1961(昭和36)年の宗祖親鸞聖人700回御遠忌法要を機縁に、その翌年に当時の訓覇信雄宗務総長によって提唱された信仰運動。「家の宗教から個の自覚へ」というスローガンが掲げられた。

【用語解説】教団問題(きょうだんもんだい=真宗大谷派)
 1969(昭和44)年、当時の大谷光暢法主が、内局の承認を得ずに管長職を長男の光紹氏に譲渡すると発表した「開申事件」を発端とする騒動。「同朋会運動」を推進する改革派と、大谷家や大谷家を擁護する保守派が対立し、後継者が次々と離脱した。最終的に光暢法主の三男、暢顯氏が96(平成8)年に門首に就任し、沈静化した。〝お東紛争〟とも呼ばれる。

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