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【能登半島地震】共助の象徴 七尾祇園祭、復興へ一歩

※文化時報2024年7月23日号の掲載記事です。

 能登半島地震で被災した石川県七尾市で13日、大地主(おおとこぬし)神社(大森重宜宮司)の祭礼、「七尾祇園祭」が開催された。各町会が建てた奉燈は地震の影響で11基中8基となったが、町には多くの家族連れが集い、威勢のいい掛け声や人々の談笑で一晩中にぎわった。大森宮司は「祭りは共助の象徴。この祭りが復興の始まりになる、みんながそんな気持ちになるのでは」と話している。(松井里歩)

ルーツは京都、平安から

 七尾祇園祭は疫病退散を願う祭りとして、平安時代に京都祇園社の祭神を勧請(かんじょう)し、祇園会を行ったことが始まりとされる。

 祭り当日は、海の近くに祭神を遷座させる仮宮を設置し、その後は奉燈の明かりを道しるべに神社へと帰っていくのだという。

 海の近くへ来るのは、祭神に涼んでもらう目的のほか、各町を回った奉燈が疫神を乗せてきて海に流す役割も兼ねているそうで、日が暮れるころになると各町の奉燈が笛や太鼓の音色を鳴らしながら続々と仮宮付近に集合した。

港近くからは花火も打ち上がった

 奉燈は大きいもので高さ約12メートル以上にもなり、各町50~100人で担いで動かす。若衆らが四方に連なって下から担ぎ上げ、児童らが乗って笛や鉦(かね)、太鼓を奏でる。中高年もおり、幅広い年齢層の男性らが、担ぐ腕に力を込めていた。

 夜9時ごろ、担ぎ手らがお祓(はら)いを受けた後、「弥栄(いやさか)」を由来とする「サッカサイ、サッカサッサイ、イヤサカサー」という掛け声とともに、くじ引きで「一番町」となった奉燈が大地主神社へ出発。ダイナミックな移動や乱舞で観客をにぎわせながら、それぞれの奉燈が少しずつ進んでいった。

 仮宮の広場から神社までは、徒歩10分。今回巡行したのは7基だったが、全てが境内に集まるのには3時間ほどかかった。

境内に集まった奉燈

 仮宮の近くに並んだ出店や知人との会話、動画撮影などを楽しみながら、観客らは思い思いの場所で奉燈が境内へ帰るのを待った。長い旅路を終え、境内に無事到着した奉燈を、担ぎ手や観客らは大きな拍手で迎えていた。

自分たちでやる意義

 大地主神社は能登半島地震で狛犬(こまいぬ)や常夜灯が倒れ、拝殿が一部損壊するなどの被害を受けた。コロナ禍での祭りは神事のみの実施となっており、昨年は4年ぶりに奉燈を復活させたところだったという。

 祭りを開催するかどうかは、奉燈を出す町と出さない町を募って決める。神事を執り行う係である山王奉賛会と、青年らでつくる祇園祭実行委員会や氏子総代などによる合同会議などを経て、今回は8町会の参加が決定した。

 山王奉賛会の会長を務める河元秀敏さんは「われわれは神事をやるだけ。若い人たちが参加して、明日に明るいものがあればそれでいいんじゃないか」と笑う。大森宮司も「若い人の決定は明日につながることなので、ありがたい」と話した。

海の近くに設置された仮宮に座る大森宮司(右)

 現在も芸能人やボランティアが復興のために訪れ、楽しめる場を提供している。しかし、祭りは自分たちでやるものだと宮司は言う。「祭りがなくなると町の元気がなくなり、地域がだめになってしまう。仕事がなければ祭りはできない。できるということは社会が動き始めてきたということだ」と、七尾祇園祭が地域にとって象徴的なものだと伝えた。

「キリコ」郷土愛の源

 石川県能登地方には、地域に数々の祭りがある。「祭りのある時期は一番人口が多い」ともいわれるほど、能登の人々は祭りを愛し、伝統を守り続けてきた。

 夏から秋にかけ、キリコと呼ばれる巨大な奉燈を担ぎ練り歩く各地の「キリコ祭り」は2015(平成27)年4月、日本遺産に認定。それぞれ地域ごとに特色あるキリコが巡行されている。

 口火を切るのが、今年は7月5、6の両日に行われた能登町の「あばれ祭」。祭りに関わる3神社4基の鳥居は能登半島地震で全て倒壊し、避難による担ぎ手不足もあったが、クラウドファンディングなどの力を借りて開催にこぎ着けた。復興を願い地元以外からも担ぎ手が集った。

 キリコ祭り以外にも、毎年5月に開催される大地主神社(七尾市)の「青柏祭でか山」は、高さ12メートル、重さ20トン、車輪直径2メートルという巨大な曳山(ひきやま)を引く祭りで、国の重要無形民俗文化財に指定されている。

 元日の地震発生後、人々は祭りをどうするか考えてきた。2月に須須神社(珠洲市)で行われた復興を話し合うイベントでは、能登の復興には祭りがかぎとなるとの発言も少なくなかった。祭りは地域に元気を取り戻すきっかけとして捉えられている。

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