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【被災の痛み㊦】地震を生かす復興へ 寺院再建、避難を想定
※文化時報2025年1月17日号の掲載記事です。
阪神・淡路大震災は17日、発生から30年を迎える。浄土真宗本願寺派順照寺(神戸市須磨区)は本堂が倒壊。善本秀樹住職は自分が生き残ったことに悩まされた経験から、お寺を地域の防災拠点にすべきだと訴える。能登半島地震で被災した真宗大谷派願正寺(石川県七尾市)の三藤了映住職も、本堂を避難所として再建しようと奮闘する。被災の痛みが、地域に生かされていく。
地獄はこの世にある
阪神・淡路大震災前日の1995(平成7)年1月16日、順照寺では先々代住職の七回忌法要を営んでいた。元々は香川県にあったお寺で、先々代が戦後に現在地へ移転。そのため、香川県から親族が多く参列していた。
法要後、年老いた親族5人は長距離の帰路を避け、本堂に泊まることを決めた。順照寺の晨朝は6時半から始まる。早めに目覚めた善本住職はトイレから出た瞬間に大きな音を聞いた。「ダンプカーが事故でも起こしたのか?」と思うやいなや、大きな揺れに見舞われた。
父母や妻子は無事だったが、親族らがいた本堂が倒壊した。がれきの中から1人が脱出し、近所の人たちの応援で2人を助け出したが、2人が亡くなった。遺体を引き取りに来た親族は「死ぬために神戸に来たようなものや」と吐き捨てた。
近くの親戚の家も倒壊した。いとこは、がれきの中の両親を助け出そうとしたが、周辺で発生した火災が及んできた。「もう行って」と叫んだのが母親の最期の言葉となった。いとこは「亡くなるときの臭いやほこりが忘れられない。地獄はこの世にある」と善本住職に伝えた。
善本住職は、震災の約1年前に住職を継いだばかり。立派な僧侶になることが目標だった。親族をはじめ、多くの人々が亡くなり、自分が生き残ってしまったことを悔いた。「何のために生かされたのか。地位も名誉も意味がない」
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そんな思いを抱えて30年。今も「何かできることがあるはず」と考える。昨年6月に神戸市佛教連合会の会長に就任してからは、神戸市に災害連携協定の締結を申し入れ、実現に向けた協議を進めている。善本住職は「地震は必ず起こる。だから、お寺を地元のインフラにしなければいけない」と力を込めた。
生かされたからこそ
願正寺は2024年1月1日、築163年の本堂が倒壊した。三藤住職が外に飛び出した瞬間、巨大な梁(はり)が落下。目の前で鐘楼も崩れ落ち、かろうじて命を取りとめた。
三藤住職は、地震発生の1カ月余り前に住職になったばかりだった。かつて本堂では、書道団体「映心会(えいしんかい)」が活動し、音楽イベントが行われるなど、地域の人々が集う場となっていた様子が脳裏に刻まれている。
地震前日の除夜の鐘は、新型コロナでの制限を解除。温かい麺類やぜんざいを振る舞うなど、境内は数年ぶりに200人余りの参拝者でにぎわった。
ただ、昨年の大みそかは、恒例の年末行事ができる状況になかった。翌1日午後4時10分には、本堂があった場所で手持ちの鐘「喚鐘(かんしょう)」を打ち鳴らして追悼法要を営み、「生かされたからには、なすべきことがある」と自らに言い聞かせた。
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本堂再建へ奔走する三藤住職は、お寺が地域の人々が集まる場だったからこそ、避難所にも使えるようにしようとしている。「それが、復興のシンボルになる」と強調する。
門徒の思い 住職動かす
「本堂を」資金集め奔走
阪神・淡路大震災で本堂が倒壊した浄土真宗本願寺派順照寺(善本秀樹住職、神戸市須磨区)は、門徒の復興への思いが本堂を再建へと導いた。能登半島地震で被災した真宗大谷派願正寺(石川県七尾市)の三藤了映住職は、苦労を承知の上で再建への資金集めに奔走する。「他の被災寺院が復興するための人柱になる」と覚悟を決めている。
震災前の順照寺は、近所の子どもの遊び場となり、年配者は将棋を指して交流。婦人会は茶道や華道、詩吟の集いを開いていた。常に人が集まるお寺として復興することを思い描いたが、多くの門徒が被災したため、お寺の復興は後回しだと思っていた。
震災約半年後の1995(平成7)年夏に仮本堂を建造。震災から3年ほど後に勤めた法要のお茶会で92歳の長老がつぶやいた。「生きているうちに、再建されたお寺が見たい」。それを聞いた門徒総代が「やろう!」と声を上げた。
建設委員会が設立され、計画が見る間にまとまった。再建費用は約1億円。宗派から3千万円を借り入れ、指定寄付金=用語解説=で3千万円を調達、残りを門徒に3回に分けて納入してもらうことにした。
必要額に達するか不安だったが、震災5年後の2000年に、本堂と庫裏が一体となった鉄筋コンクリート造の建物が竣工。1階部分をホールにして、バーカウンターも設けた。地域の人々が集まり、気持ちを分かち合える場所にした。
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今では、地元の小学4、5年生が地域の伝統文化を学ぶ場として使われ、8月の地蔵盆には子どもたちでにぎわう。そんな中で、震災の経験を伝える活動にも取り組む。善本住職は「住民の半数は震災を知らない。経験を伝えるには行動が必要だ」と語る。
指定寄付金の難しさ
一方、能登半島地震で被災した願正寺では、本堂再建が思うように進んでいない。三藤住職は修復の可能性を探ろうと、複数の専門家に相談したが不可能と判断され、逆に近接する家屋への二次被害の恐れから早期に取り壊すことが必要と指摘された。
昨年2月11日、最後のお勤めを行った。噂を聞いた人が多数集まり、「本当に修理できないのか」と口々に惜しんだ。三藤住職は「なんとしても早く、地域の人や門徒が集まった場所を再建しなければならない」という思いを固めた。
2月19日からクラウドファンディング(CF)で再建費用を募った。442人から712万円余りの支援が集まったものの、目標2千万円に対する達成率は35%。一方、本堂解体には1540万円を要した。
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10月23日には、指定寄付金を受けられるようになった。県内外の企業を訪問して協力を求めているが、「一つの寺院を対象にした寄付は難しい」と断られることが多い。いち早くCFを行って周囲から批判されたこともあり、また批判されないかという不安がある。被災寺院間で寄付金の奪い合いになるのも心配だ。
その上で、指定寄付金の対象となっている宗教法人を周知してほしいと考えている。文化庁や石川県で公表しているが、情報更新の頻度は少なく、宗派も周知はしていない。「指定寄付は、企業の懐が痛まない制度。理解を広げるためにも後方支援してほしい」と求める。
見通しが立たない
能登半島地震で被災した寺院の再建への動きは鈍い。地域の復興が進んでいないことが影響している。
石川県内の応急仮設住宅は、昨年12月23日に計画建設戸数6882戸が完成した。ようやく生活再建の段階に入ったが、住宅などの公費解体の進捗(しんちょく)率は約4割。全ての解体を終えるのは、今年10月末になるとの見通しだ。
順照寺の善本住職は「阪神・淡路大震災から30年を経過し、多くの経験があるはずなのに、能登半島は復興が遅すぎる。能登の人々は本当にがまん強い。本当の笑顔を見せられるのはいつになるのか」と心配する。
願正寺の三藤住職は「再建計画はどっしりと構えて進めるべきだと思うが、人の興味が薄れると、寄付も集まらなくなる」と焦りを見せる。指定寄付の期間は3年間。「制度利用を考える寺院は、状況が整ってから申請した方が、本当はいいのかもしれない」と迷いをのぞかせる。
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先の見通しが全く立たない状況で、痛みを抱えた宗教者は何を思うのか。三藤住職は言う。
「問題にぶつかり続け、悩みは尽きない。それでも、この姿を門徒や他の寺院に見てほしい。これほどの思いで再建を進めているからこそ、本堂が復興の象徴になるはずだ」
◇
この連載は、高田京介、松井里歩、大橋学修が担当しました。
【用語解説】指定寄付金
公益法人などが広く一般に募集し、財務大臣が期間と募金総額を指定する寄付金。教育または科学の振興、文化の向上のための支出で、緊急を要するものが対象となる。寄付者は所得税や法人税の優遇措置を受けられる。宗教法人の場合は通常、国宝や重要文化財の修理などに限られるが、阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震などでは、特例として建物復旧のための募金も対象となった。
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