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【能登半島地震】取材ノートから:プラスアルファのいのち
※文化時報2024年12月20日号の掲載記事です。
能登半島地震で被災された方々は、どのような思いで新年を迎えるのだろうか。
石川県能登地方に大勢の門徒を抱える真宗大谷派は、1年を締めくくる「御正忌報恩講」を11月21〜28日に真宗本廟(東本願寺、京都市下京区)で営んだ。会期中には、石川県珠洲市宝立町の往還(おうげん)寺の松下文映住職の姿があった。
往還寺は本堂が全壊したが、プレハブ小屋を建てて、市立宝立小中学校の前の土地を境内地として譲り受け、本堂再建を目指し再出発している。あの日、松下住職は門徒宅をお参りしていた。一時行方不明になったが、5日後に被災した門徒とともに自坊に戻った。
「本当はお浄土にかえるはずでしたが、プラスアルファのいのちと思っています」。優しい口調でそう話す姿に、言い表せない気持ちになった。
今まで本山の報恩講には必ず出仕または参詣しているといい、今年もほぼ全座、参詣した。例年は坊守である奥さんに嫌みを言われていたが、今回は「いってらっしゃい」と送り出してくれたという。
本山の報恩講に先立つ11月1日、往還寺は難を逃れた本尊の修復奉告と報恩講を金沢別院(金沢市)で厳修した。「来年も本山で迎えたい」と、気持ちを新たにする松下住職の言葉に、真宗門徒の思いを垣間見た。
記者自身の1年を振り返ると、私事で恐縮だが、昨年12月25日に親族を亡くした。老齢のため覚悟していたが、数年前までほぼ毎月、檀那寺のお参りで顔を合わせていたとあって、つらかった。親戚や他の檀家と共に、何とか年内に弔うことができた。
そうして新年を迎え、朝のお参りから帰ってきてから、地震の一報を受けた。大谷派の担当として、人ごととは思えなかった。北陸の関係者に連絡を試みて、1月4日に現地行きを志願。喪に服す間もなく、たくさんの取材を通して、逆に勇気づけられた。
もし親族が亡くなっていなかったら、ここまでの情熱を持って取材していなかったかもしれない。逆に地震がなかったら、心が折れていたかもしれない。縁といのちのつながりを感じた1年だった。
被災地ではまだ追弔・慰霊する状況にあるとは言いがたい。それでも仏事を回復させたり、追弔会を開いたりすることは、気持ちを切り替えるとまではいかなくても、1年を振り返ることになるだろう。被災者に寄り添うことと信仰運動は、歩みを共にしていると信じたい。
(高田京介)
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