【能登半島地震】寺社の再建も補助へ 石川県、復興基金を活用
※文化時報2024年9月6日号の掲載記事です。写真は半分が倒壊した浄土宗宝幢寺の本堂。
能登半島地震で甚大な被害を受けた宗教施設の再建などに対し、石川県は補助金を交付する方針を固めた。寺院や神社を地域コミュニティー施設と位置づけ、復旧・復興の対象に含める。8月23日に非公開で行われた県と19市町の意見交換会で、馳浩知事が明らかにした。(佐々木雄嵩)
寺社などの地域コミュニティー施設の再建にかかる費用に、補助率4分の3、上限1200万円を補助する。2016(平成28)年の熊本地震では補助率2分の1、上限1千万円だった。財源は、国の特別交付税や宝くじの収益金を基にした復興基金を充てる。
対象とする施設の要件も、熊本地震の復興基金を参考とした。住民が利用し、住民によって維持管理が行われていることや、祭事で使用されることなどを満たす必要があり、詳細は県が検討している。
県総務部市町支援課の担当者は「各地域の要望を踏まえ、寺社などへの補助の拡充を決めた。能登にはさまざまな祭事があり、寺社の復興がコミュニティー再生の核になると考えている。被災者には生活再建に集中してほしい」と説明した。
一方、能登半島地震の復興基金は総額約540億円。このうち、県・市町共通事業に400億円、市町が裁量で活用できる配分枠に100億円、復興の進捗に合わせた対応に充てる留保分に40億円が振り分けられた。
寺社などを含めた地域コミュニティー施設の再建支援は、県・市町共通事業の基本メニューとして位置付けられた。基本メニューには、高齢世帯の見守り強化などを含む27事業が盛り込まれている。県は復興基金の事業案を9月の定例県議会に提案し、順次予算化。年内に分配を開始する見通し。
県によると、各市町はおおむね好意的な反応を示しているという。「補助の手続きの簡素化を」という要望が多かったが、担当者は「すでに対応を検討中。早急に提示する」と話している。今後も被災者のニーズ掘り起こしのため、市町との意見交換会を重ねていく。
背景に宗教者の活動
石川県が寺社の再建に補助金を交付する方針を固めたのは、宗教施設が必要な地域資源と認識したことを意味する。
過去の事例を見ると、2007(平成19)年の新潟県中越沖地震や16年の熊本地震でも、同様の補助金が寺社の再建に充てられた。前例によって石川県も方針を固めやすかった側面もあるが、震災前から地域で活動していた宗教者の働きかけが大きく影響しているといえる。
災害アドバイザーで「Office SONOZAKI」代表の園崎秀治氏は、社会福祉法人佛子園(石川県白山市)理事長で日蓮宗蓮昌寺住職の雄谷良成氏の存在の大きさを挙げる。
雄谷氏は、地域住民と障害者が共生する施設運営で人口増加に寄与し、地震発生後には、福祉避難所の開設や自身が会長を務める青年海外協力協会(JOCA)のOBを被災地に呼び寄せたりしている。そういった活動が、馳浩知事との気脈を通じさせ、今回の判断を導いたという。
園崎氏は、宮城県女川町における僧侶のサロン活動やシャンティ国際ボランティア会(SVA)の石川県輪島市での支援活動を引き合いに、「災害が起こった後でも、宗教者が地域に寄与していることが大切」と語った。
寺社の防災に詳しい稲場圭信・大阪大学大学院教授(宗教社会学、共生学)は、公費解体が環境省の主導で行われていることを挙げ、「寺社の再建を国レベルで考えられるようにするには、宗教者の日常の活動が重要になる。平時から住民や行政と連携すべきで、宗教者は社会づくりを行っていくことが求められる」と話した。(大橋学修)
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