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〈18〉知的障害とワクチン
※文化時報2021年10月11日号の掲載記事です。
新型コロナウイルスワクチンの2回目の接種をやっと受けられた。
中程度の知的障害がある男性と一緒に接種しに行った。グループホームの職員が手分けして、予約と同行を繰り返している。職員たちは疲労困憊である。少しでもお役に立てられるのならと、車での送迎を申し出た。
男性にとっては、普段身近にいる職員とは違う人間の車に乗るのは大きなストレスだったかもしれない。時間に余裕を持って迎えに行ったので、待合室で座っている時間が長い。注射を打っても15分の経過観察があり、すぐには帰れない。パニックにならなければいいがと心配していた。男性はかなりの巨漢だ。万が一ストレスから不穏になれば、1人では支えられない。
過去にこんな経験をした。今回とは別人だが、同じく中程度の知的障害のある男性を車に乗せた時のことである。
用事が終わって駐車場に戻ると、同じ色だが全く別の車のドアを開けようとする。自分が乗ってきた車と勘違いしているようだ。「この車ではない」と説明するが、聞き入れてくれない。別の車のドアを力いっぱい引っ張り開けようとしているのだ。
車から体を引き離そうとしても、ものすごい力で振り払われる。車を傷付けたり、破損させたりしたら大変である。慌てて本来乗るべき車を移動させ、ドアを開けた。男性はキョトンとした顔をして乗り込んできた。
勘違いは誰にでもある。しかし、知的障害のある人に、それが勘違いだと伝えるのは難しいときがある。相手がパニックになったら余計に伝わらない。
コミュニケーションが取れないのは、知的障害がある人が悪いのだろうか?
あるいは、うまく伝えられないこちらが悪いのだろうか?
ワクチン接種を受けに行くついでに、たった1人の男性に同乗してもらうだけの話である。普段から慣れておかないと、いざというときに役に立たない。ともかく1回目も2回目も無事に終わり、ホッとしている。(三浦紀夫)
三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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