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未来世代に活用委ねよ 末吉竹二郎氏が語る真如ヤーナ(下)
真如苑の新たな聖地、真如ヤーナ=用語解説=の活用方法に関し、地球環境問題アナリストの末吉竹二郎氏は「未来世代への責任」があることを強調した。気候変動や生物多様性に関する幅広い知見から、次世代に余地を残すべきだと提唱。真如苑が教団として取り組んでいく必要性を語った。(主筆 小野木康雄)
末吉竹二郎(すえよし・たけじろう) 1945(昭和20)年生まれ。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)取締役・ニューヨーク支店長、東京三菱銀行信託会社(NY)頭取などを経て、2003(平成15)年から国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問。各種会議体委員や地方自治体のアドバイザーなどを務める。
《(上)からつづく》
陰徳ではなく、理解してもらう
――真如ヤーナを通じて、真如苑はどのような情報発信を心掛ければいいでしょうか。
「真如苑のさまざまな施設で、あるいは行事の機会を捉えて『地球環境問題を深刻に受け止めているので、できる対策を取っている』と、目に見える形でアピールすればいいのではないでしょうか。よくある例が、太陽光発電や電気自動車の導入です。陰徳ではなく、皆に理解してもらえるように徳を積むのです」
「信徒の中には、私以上に地球環境問題を心配している方もおられるでしょう。教団にも、そのような対策を期待しているのではないかと思います」
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――真如苑は社会活動に熱心な教団ですが、奥ゆかしい方々が多いからなのか、あまり社会に伝わっていませんね。
「私は外部の人間として遠慮なく意見を申し上げているのですが、真如苑は社会問題にできる範囲で取り組んでいることを、はっきりと信徒の方々に伝えた方がいいのではないか。自分の問題を解決するためだけでなく、社会全体に目を向ける教団に所属していることを誇りに感じる信徒が増えれば、心強いサポーターになると思います」
――末吉先生は真如苑の信徒ではないとのことですが、どのようなきっかけで真如ヤーナのプロジェクトに関わるようになったのですか。
「10年ほど前、環境保全団体のNGOを通じて講演したのがきっかけだったと思います。その後、プロジェクトに対する意見を聞かせてほしいというお話がありました」
「私は元々銀行員なので、組織が永続するためには何をすべきで、何をしてはならないかを考えてきました。宗教活動はビジネスではありませんが、よくビジネスならどうするかという視点で、教団の皆さんにお話ししています」
――真如苑をどのような組織と感じていますか。
「信徒数約100万人の教団ですから、社会の縮図であるといえます。社会で起きていることは、教団の中でも起きているでしょう。だから、社会から遊離してはいけない」
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「私は宗教ほどサイエンスと相性のいいものはないのではないか、と思っています。違うという考え方があるのはよく分かっています。けれども、最新技術を活用しない手はない。次世代の信徒たちにどうアプローチをするか、ということと通じる話です」
行動しながら改善する
――宗教教団の中には、内向きの発想にとらわれてしまう団体もあります。
「内側に閉じこもる形で自分の宗教的関心を追求するのは、もちろん個人の精神活動としては大切ですが、集団としては社会との関わりがより重要になるでしょう。有益ではなく害を及ぼす存在になってしまったら、終わりです。社会からの支持がないといけません」
「ビジネスのリスク管理にも通じることですが、組織を守るためには、社会との平和共存が欠かせません。もし問題が起きても、反発の程度はずいぶん違うと思います。コアな部分は守っても、外縁では社会との接点をたくさん持った方がいいのではないでしょうか」
――宗教に対する社会の偏見を理由に、足踏みしてしまう若い信徒もいます。
「何をするかとどう伝えるかは、別の次元の問題です。真如苑が社会貢献活動を行うべきかどうかでいえば、した方がいい。『宣伝ではないか』と受け止められる懸念はゼロではありませんが、伝え方を工夫すればいいのです。反発されそうだからやめておいた方が無難、という発想になってはいけません」
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「企業で不祥事が起き、記者から社内規定を引き合いに『対応が遅れているのではないか』と指摘されたとします。『議論はしていたが、中身が固まっていないから規定を改訂していなかった』と言うのと、『議論があったから規定に入れたが、中身を浸透させようと努力している最中に起きた』と説明するのでは、社会の反応は違うはずです。少しでも行動して変化を始めた方が、有利です。考えていても行動に表れていないのなら、外から見ると、何もしていないのと一緒です」
――修行の身だからこそ行動に移す、という発想が役立つかもしれませんね。
「新しいことを始めるとき、日本は難しさや不十分さを理由に行動しない傾向があるけれども、海外はやるべきなら不十分でも取り掛かる風潮があります。行動しながら改善していけばいいのです。問題が深刻であればあるほど、完成度を目指して手をこまぬいていてはだめ。リスクはいつ発生するか分からないので、何もしないよりは、した方がいいのです」
苑主の言葉、ますます必要
――伊藤真聰苑主は2012年3月にケニア・ナイロビで行われた環境に関する国際会議で、水一滴にも命があり、循環・再生利用の知恵を伝え、自分だけの幸せでなく、子々孫々、未来の幸せを考えることの大切さを述べました。あれから10年以上たちましたが、この教えは真如ヤーナでどのように生かしていくべきでしょうか。
「全く古びていないどころか、ますます必要になってきた言葉ですね。今の地球環境の課題と照らし合わせたときに、何が大事で、何をすべきか、何をしてはならないのか。教団の皆さんできちんと議論してほしいと思います」
「良き質問は、生まれた時にすでに回答があるといいます。『なぜ』を皆が理解できると、やるべきことはおのずから見えてくる。議論して、問題意識の共有を図る必要があるでしょう」
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――ご自身は、言葉の内容をどう受け止めていますか。
「〝子々孫々、未来の幸せを考える〟とは、地球は未来から預かったものであり、汚したまま、壊したまま返してはならないという意味だと思います。現代のツケが未来に行くことはやめよう、というわけです」
「『持続可能な開発』の本来の意味は、環境と開発に関する世界委員会が1987年に公表した報告書『我ら共有の未来』(Our Common Future)で指摘しています。現在の世代がより豊かな生活をするために、未来世代の能力を損なわない範囲で行う開発のことを指します。つまり、未来世代が同じ開発をしたいと考えたときに可能となるよう、世代間の公平を図るという意味です」
「また、米国の先住民には、部族にとって重要な決定をするときは7世代先までの影響を考えろという教えがあります。それが抑止力になるのです。未来の幸せを考えましょうという苑主さまの言葉には、自分のためだけの行動をやめよう、未来世代への責任を考えようという意味も込められていると考えられます」
――「水一滴にも命がある」という言葉も印象的です。
「限りある地球資源や他の生き物も、未来へ引き継いでいかねばならない。人間はその一部として、命の引き継ぎをしていかねばならない―。そうおっしゃっているのではないでしょうか」
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仕事託せば命つながる
――真如ヤーナを整備する上でも、未来世代への責任を考慮すべきなのかもしれませんね。
「今の世代が広大な土地を全部何かで埋め尽くそうとするのは、いけません。次の世代がやりたいことのできる余地を残しておき、100年、200年先へと仕事を託す。それによって、命がつながると考えるべきでしょう」
「ヨーロッパには何世紀にもわたって造られた古い聖堂がありますが、最初の方で工事に当たった人々は、完成時の姿を知りません。各世代が、それぞれ役割を果たしながら造り上げる。真如苑にも、そうであってほしいと思います」
――最後に、真如ヤーナに期待することをお聞かせください。
「まずは聖地の核心部分として、信徒の皆さんの心のよりどころとなること。それから、さまざまな人々が交流し、未来へ大切な価値を伝承して、文化を継承する場になること。そして、環境保全を実践する場になること。これらを期待しています」
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【用語解説】真如ヤーナ
東京都立川市と武蔵村山市にまたがる真如苑の新たな聖地。東京ドーム23個分に相当する面積約106haを誇る。日産自動車村山工場の跡地で、真如苑が2002(平成14)年に取得後、地元自治体などと協議して利用方法を決めた。2022(令和4)年、公募の上、伊藤真聰苑主により「真如ヤーナ」と命名。ヤーナはサンスクリット語で「乗り物、道、教え」の意味がある。
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