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冬季五輪と信教の自由

※文化時報2022年1月21日号の社説全文です。

 北京冬季オリンピックの開幕(2月4日)まで2週間となった。

 平和の祭典である五輪は外交の舞台にもなるが、米国や英国などは「外交ボイコット」を表明している。中国政府による少数民族・ウイグル族などへの弾圧に抗議するためだ。

 外交ボイコットは、政府関係者を開催国に派遣しないことを意味している。前回2018年の平昌(ピョンチャン)五輪のとき、米国はペンス副大統領(当時)が開会式に出席し、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と会談した。新型コロナウイルス感染拡大前だった当時と比べ、対面での外交は難しくなったものの、バイデン政権は今回、習近平政権との対話の機会を自ら閉ざしたことになる。

 もっとも、ウイグル族などへの弾圧は、宗教界にとって見過ごせない問題だ。

 中国政府は「再教育」を名目に強制収容所を造り「過激思想を広めた」などとして、イスラム教徒を次々と拘束しているという。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、過去に拘束された人々への聞き取りを元に「宗教色を排除した単一の中国人国家の考え方と共産党の理念を徹底的に植え付けられる」と指摘している。

 信教の自由には、宗教を信じる自由も信じない自由も含まれる。人類共通の普遍的な価値観であることは、論をまたない。国際社会は中国政府に対し、少数民族・宗教弾圧への断固とした抗議を伝えるとともに、信教の自由を保障するよう粘り強く働き掛けていく必要がある。

 日本政府も昨年12月24日、北京冬季五輪に政府関係者を派遣しないことを明らかにした。ただし「外交ボイコット」という表現は使わず、岸田文雄首相は「総合的に勘案し、適時自ら判断を行った」と述べるにとどめた。必要のない過剰な配慮ではなかったか。

 日本の宗教界にも、できることがある。

 世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会は、中国宗教者和平委員会(CCRP)と交流や対話を活発に行っている。政府間外交を補完する役割は果たせるはずだ。

 一方、ウイグル族と同様に弾圧を受けているチベット族には、仏教徒だけでなく、神道など他宗教の宗教者も支援に乗り出している。チベット仏教への連帯感を示しつつ、ウイグル族や香港を含む中国の人権問題が、信教の自由と深く関係することを社会に訴えてほしい。

 鍵を握るのは、カトリックの総本山・バチカンの動向だ。欧州で唯一、台湾と国交を結びながら、司教の任命方法を巡って中国とも接近している。絶妙な距離感を保ちつつ、問題解決に動くことを期待したい。

 前回の平昌五輪では、北朝鮮が出場し、韓国と合同で開会式の入場行進に臨んだほか、アイスホッケー女子で南北合同チームを組んだ。さらに北朝鮮は金正恩(キムジョンウン)氏の妹、与正(ヨジョン)氏を代表団に送り込んだ。

 北京五輪でもそのようなサプライズが起きるかどうか、開幕まで目が離せそうにない。

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