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【能登半島地震】商店街復興へ、おかみ支える 大谷派浄泉寺
※文化時報2024年2月9日号の掲載記事です。
断水が続き料理することさえままならない暮らしの中で、温かい食事を囲む。石川県七尾市の真宗大谷派浄泉寺(越岡慈縁住職)に、炊き出しを通じて緩やかなコミュニティーができた。自坊で地域を支える坊守と、京都の大学から能登を思う息子。そして、商店街の復興へ動き出した女性たち。それぞれの場所から、さまざまな思いが重なり合う。(松井里歩)
1月30日正午。近くの東部商店街と「東部おかみさん会」のメンバーらが境内の駐車場に集まり、初の炊き出しを行った。
温かいご飯を待ちわびる人々が列をつくり、スープ餃子(ぎょうざ)やおでん、甘酒、ぜんざいなどが約100食ずつ振る舞われた。この日は小中学校の授業も再開し、下校途中に訪れた児童生徒らも少なくなく、親や友達と境内で食事を共にした。近くで弁当店を営む女性は「おいしい。色々なメニューがあるのはすごい」と、ほっとした笑顔を見せた。
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マルシェの縁で炊き出し
東部おかみさん会は、2022年から浄泉寺を拠点に「まちぶらマルシェ」を開いてきた。昨年10月のマルシェには、東部商店街の45店舗が店頭で特製弁当を販売したり、ワークショップを行ったりした。浄泉寺にはキッチンカー4台と子どもが喜ぶ縁日・遊びのコーナーが設けられ、ウクレレの陽気な音色が境内に響きわたった。
活気ある商店街は、今回の地震で建物の半数以上が「危険」や「要注意」と判定された。工夫して再開する店も出てきたが、断水の影響で思うようには再開できない。そうした中、マルシェに2年連続出店した古民家カフェBorganic(石川県かほく市)を営む小坂嘉美さん(53)から連絡があり、炊き出しの開催に至った。
七尾市と観光交流都市協定を結ぶ長野県飯山市の「いいやま駅前マルシェ実行委員会」が、東部商店街のメンバーと面識がないにもかかわらず、地元で緊急募金を行い、支援金を届けてくれた。
東部おかみさん会の会長、左藤祐子さん(59)は言う。
「『もう無理』と思っていたけど、いろいろな方が応援してくださることで、前を向けるようになった」
境内被災 京都で発信
元日の地震では、炊き出しの会場となった浄泉寺の境内も被害に遭った。揺れの最中に鐘楼の鐘が勝手に鳴り響くほど震動が激しく、アスファルトが割れ、本堂の厨子(ずし)や数々の墓石が倒れた。
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建物の倒壊は免れたが、地面の下が液状化している可能性があり、見えない部分の被害は点検を受けるまで把握しきれないという。余震が続く中、坊守の美佐緒さん(50)はお寺の隣で自身が経営する茶店「お茶の油谷」で寝泊まりしている。
元日には息子の滉周(あきと)さんも帰省していた。浄土真宗本願寺派の宗門校、龍谷大学(京都市)の文学部2年生。地震後は学生らでつくる「能登支援ネット」の副代表になった。
「学生たちは災害慣れしていて、関心については被災地とギャップがあるように思える。自分が発信しなければならない」。大学で能登地方の現状を知ってもらい、思ってもらう環境をつくる。帰省中に激しい揺れに襲われた自身の経験や、今も故郷に残る両親のことを伝えることで、京都で何ができるのかを考えてほしいという。
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美佐緒さんは「復旧は、息子の力を借りながらになる。門徒さんたちはお寺から少し離れた所に暮らしているので、3月のお彼岸にはみんなで顔を合わせられるようにしたい」と話す。
炊き出しは、普段のつながりがあったからこそできた。商店街もお寺も、それぞれができることをやっていく。美佐緒さんはそう考えている。
炊き出しの中心となった「東部おかみさん会」会長の左藤祐子さんは「商店街の中心は50~60代。商売をやめても働く所もないから、やるしかない。店を開いても人は来ないだろうけど、こつこつと灯(あか)りをつけていくしかない」と語る。
「今年のまちぶらマルシェは、去年と異なる企画じゃないと」と左藤さん。復興へ、歩みを止めるつもりはない。
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