まるっとわかる! 花粉と花粉症のはなし
春…そしてついに来てしまった、花粉症の季節。
今年は花粉が多いの? どうやって予測しているの? などなど、気になる花粉症と花粉の関係について、『花粉ハンドブック』の著者、日下石 碧(にっけし あおい)さんに解説していただきます。
今年は全国的に花粉の飛散数が多い
日本人の約4割の人が何らかの花粉症で、約3人に1人はスギ花粉の花粉症だと言われています(※1)。
そんなスギ花粉の飛散数は、2023年春は前年の約2.5倍と推定され、全国的に花粉の飛散数が多い年になることが予想されています。
さらに、なんと東京都ではここ最近10年間、神奈川県ではここ最近26年間で最大のスギ花粉飛散量が多いことが報道されています。
花粉飛散数が多いと花粉症患者が増加することから、現在花粉症の症状が出ていない人でも今年は特に注意が必要です。また、近年では小学生の患者も増加しています(※2)。
※1:環境省が発行している「花粉症環境保健マニュアル」の2019年の調査の結果
※2:1992年では全学年5%程度だったのに対して2012年で10%程度に増加。子供の花粉症の症状は風邪の症状と酷似しているため、自己診断せずに必ず専門医を受診してください。
花粉の多さはどうやって調べられている?
さて、毎年テレビなどで発表されている花粉飛散の予測はどのように行われているのでしょうか?
まず、各県の研究部門や林業試験場などの調査員が毎年11月~12月ごろにスギの樹を双眼鏡で観察し、つぼみのつき方から花粉量の目安となる総合指数を計算します。この指数を前年と比較することで、春の花粉飛散数を予測し前年度に比べて多い・少ないなどの予報を出しています。つぼみの数の増減は以下の2つの大きな要因によって決まります。
つぼみの数を左右する要因
① 6月の気温
スギの花は4月後半に咲き終わり、翌年の花の基を6月に作り始めます。この時に天気が良く気温が高いと、花を作る栄養が多く作られるため、雄花が多くなると考えられています。7月~1月にかけて花が成長し、2月くらいから花粉の飛散を開始します。逆に、8月頃の夏場の気温が高くても、6月の天気が悪いとつぼみの着花数は少ないようです。
② 木の成長
日本のスギは戦後の高度経済成長期に早く成長する樹木として植えられてきました。特にまっすぐに育ち、利用しやすいスギは好んで植えられました。これが今、花粉症として猛威を振るっているわけです。林野庁の資料によると2017年時点でスギは1020万haと推定されています。スギの雄花は樹が成長すると増えていき、樹齢80年~100年まで増え続け、その後、徐々に雄花数は減っていくと考えられています。今山に植えられているスギは60~70歳程度なので、あと数十年は雄花を作り、花粉を飛散させていくことになります。
他にも雄花数を増やすような要因がいくつかありますが、大きく説明されている要因は以上になります。
コンクリートに落ちた花粉も、花粉症の原因に!
花粉症の予想には花粉の飛散数も重要ですが、TV番組やCMなどでも紹介されているように、落ちた花粉にも注意が必要です。
雨が降ると花粉は地面に雨粒と一緒に落ちます。土に落ちた場合はそのまま土と混ざり合って再度巻き上がることはあまりありません。一方、コンクリートに落ちた花粉はそのままコンクリートの上に残ります。次の日に晴れて風が吹くと、花粉が舞い上がります。
つまり、スギから飛散した花粉&舞い上がった花粉がダブルで身体の中に入ってくるのです。水に触れた花粉は浸透圧の差(水よりも花粉の方が濃度が濃い)で水を吸い込み、花粉が割れてしまいます。アレルゲン物質は花粉の殻にも、中身の細胞にも含まれるので、散らばるアレルゲン物質の量は増えてしまうのです。
花粉症の発症メカニズム
ここでは簡単に花粉症のメカニズムを説明します(※3)。
…と言ったものの、じつは、花粉症の発症メカニズムははっきりとわかっていません。突然発病したり、突然治ったりもします。TVやホームページなどでは「コップ理論」なども言われていますが(ある一定量の花粉を体内に取り込んだ時に花粉症を発症するという理論)、このコップ理論もここ数年では誤りではないかという意見もでてきています。徐々に発症し悪化する場合や、突然、治った場合の説明がコップ理論ではできないためです。
そもそも花粉症は、花粉に含まれるアレルゲン物質(アレルギーの原因となる物質で、多くはタンパク質)に対して過剰に身体が反応し、涙や鼻水、目のかゆみなどの症状が出ることを言います。
罹患者の多い植物(スギやヒノキ、ブタクサなど)は、花粉症のもとになるアレルゲンのタンパク質についてある程度解明されてきており、花粉症の発病メカニズムとともに研究が進められています。
※3:花粉症の詳細な発症メカニズムや症状については、他のサイト等に詳しく記載されています(花粉症に関する情報として厚生労働省や環境省、林野庁から発表されています。文末の参考文献のURLを参考にしてください)。
どの植物の花粉でも吸いすぎると花粉症になる可能性がある
日本の多くの花粉症はスギやヒノキ、イネ科、ブタクサなど数種類の植物で占められています。しかし、じつは報告されている植物種は50種類を超えています。その多くは、職業病としての花粉症や他の花粉症・アレルギーを併発することでの報告になっています。職業病での花粉症は、例えば、農家がナシの人工授粉を行うときに多量の花粉を吸入することで花粉症になることを指します。
他の花粉症と併発する場合もあります。例えば、マツ科花粉にはアレルゲン物質はほとんどないにも関わらず、イネ科花粉と同時に体内に入ることでマツ科花粉もアレルギーの対象になることがあります。以下の表のように、1961年にブタクサの花粉症が報告されて以降、多くの植物について花粉症が報告されています。つまり、他の植物の花粉症やアレルギーと併発することで、どの植物の花粉でも吸いすぎると花粉症になってしまう可能性があるということです。
花粉症の治療法 舌下免疫療法って知ってる?
花粉症の完全な治療法はなく、鼻水止めなどの薬を使用するなど、対処療法が主になっていますが、現在で花粉症が治る唯一の方法として「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)」があります。
これは、薄いアレルゲンを含む溶液を舌の下の粘膜から吸収させて、徐々に身体を慣らせることで、花粉症の症状が出ないようにする治療法です。今までは注射で行ってきましたが、舌に溶液を垂らすだけでいいので手軽になってきていることで関心は高まっています。治療期間は2年間と長期間必要ですが、約80%の人が効果を感じているようです。しかし、数年後には効果は薄くなるため、再度治療が必要になるようです。
舌下免疫療法の効果を得やすい遺伝子の特定や遺伝子治療など研究は進んでいますが、画期的な治療法の確立はしばらくかかりそうです。
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著者
日下石 碧(にっけし・あおい)
1987年宮城県生まれ。神戸大学大学院人間発達環境学研究科で博士(理学)を修了。専門は送粉生態学。小学生の頃から花粉を観察し、昆虫や雌しべについた花粉の同定・計数をしている。
この記事の参考文献
厚生労働省 平成22年度花粉症対策 花粉症Q&A集
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/kafun/ippan-qa.html
的確な花粉症の治療のために(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf
花粉症環境保健マニュアル(環境省HP)
https://www.env.go.jp/press/110679.html
日本アレルギー学会,アレルギー総合ガイドライン2019,東京,協和企画(ISBN: 978-4-87794-206-9)
2023年花粉飛散量についての報道
東京都健康安全研究センター
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/01/26/18.html
神奈川県自然環境保全センター
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/f4y/prs/page/20221223.html
スギの雄花着花性に関する特性調査要項
https://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/tuti/t0000240.html