憧れの鳥探しに挑戦! 第5回《赤い鳥3種盛り》
Author:髙野丈(編集部)
こんにちは、文一総合出版編集部の髙野丈です。プロバードガイド・石田光史さんの著書『旬の鳥、憧れの鳥の探し方(以降、探し方本)』のテーマに合わせ、憧れの鳥探しを実践するこの企画。前回は北海道へ遠征し、大人気のシマエナガをたっぷり堪能しました。今回は冬の寒さや雪景色に映える憧れの赤い鳥たち、オオマシコとイスカを探しに行きたいと思います。
*参照:
憧れの鳥探しに挑戦! 第1回《ムギマキに会いたい》
憧れの鳥探しに挑戦! 第2回《アオシギを見つけ出せ》
憧れの鳥探しに挑戦! 第3回《降りてこなかったトラツグミ》
憧れの鳥探しに挑戦! 第4回《シマエナガをかわいく撮りたい》
真冬の信州へ
オオマシコもイスカも山の鳥で、身近な公園では出会えません。では、どこへ行くのがよいでしょう。早速「探し方本」をひもといてみます。じつはイスカもオオマシコも、同じ2月のミッションとして掲載されています。赤い鳥の見頃は真冬ということです。イスカに適したフィールドは山地の松林(長野県)、オオマシコのほうは山地のハギが生える林道とあります。そこで今回は、第1回のムギマキ探しでも訪れた信州(長野県)へ遠征することにしました。
山国である長野県には日本アルプスに象徴されるように高山が多いですが、赤い鳥たちが生息するのはアカマツ林やヤマハギが生える林道ですから、低山や峠程度の標高です。そのようなフィールドは地域のあちこちにありますが、今回はアカマツ林とヤマハギの両方がそろう場所で探索することにしました。
イスカは鳴き声がわかりやすい
林道をゆっくり歩きながら探索していると、ピキッ、ピキッという特徴的な鳴き声*が聞こえてきました。都内の公園ではまず聞けない鳴き声です。すぐに、上空を数羽のイスカが通過。群れの行く先を目で追いかけると、アカマツにとまったように見えました。双眼鏡で確認すると……いましたいました、アカマツの暗がりで数羽が動いています。
*イスカの鳴き声は『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』p37誌面の二次元コードをスマートフォンで読み取ることで聴くことができます。
さて、順序が逆になってしまいましたが、探し方本に掲載されているイスカの探し方3つのポイントを確認してみましょう。
1 飛翔時の特徴的な声で見つける
今回はまさにこの状況でした。イスカは群れで鳴きながら飛んで移動するので、周辺を群れが飛べばすぐに気づくことができます。ただし、とまって採食しているときは鳴かないので、目視でアカマツやカラマツを確認することも重要です。
2 飛んでいる姿を捉え、目で追ってとまる位置を見極める
これも今回の流れ通りでした。群れは上空を通過して遠くまで飛んでいきましたが、目で追い続けるとアカマツ林に入ってとまるのが見えました。あとはその場所まで近づいて観察すればよいのです。
3 松林に差し込む光を鳥が遮る瞬間を捉える
イスカのお目当てはアカマツやカラマツの実(松ぼっくりの中の種子)です。カラマツは落葉しているのでよく見えますが、アカマツは常緑なのでイスカが木の中に入ると、暗くて見えにくくなります。でも幸いなことに、イスカは松ぼっくりから松ぼっくりへとハシゴするために動き回るので、暗がりに部分的に差し込んでいる光を遮ることもあります。はっきり姿が見えていなくとも、一瞬横切る影には気づきやすいというわけです。
今回は労せずイスカの群れに出会えたので、3つの策はおさらいとなりました。20羽ほどのイスカの群れは、いったんとまったアカマツの木から大きくは動かず、しばらくとどまっていました。おかげで、羽色の多様さや松ぼっくりをくわえて運ぶようすなどを、じっくり観察することができました。
もう一つの赤い鳥
イスカの観察を堪能したところで、次はオオマシコを探します。じつは、イスカと同時に探していたのですが、なかなか見つかりませんでした。地鳴きはチー、チーというシメに似た鳴き声で、金属音的な印象があります。今日はこれまでその鳴き声がいっさい聞こえず、姿も見当たらずでした。探し方本をひもといて、オオマシコの探し方3つのポイントを確認してみましょう。
1 林の中ではなく縁を見る
林縁は多くの鳥がよく利用する環境です。オオマシコも例外ではなく、顕著な傾向があります。その理由の一つは、食物にあります。
2 ハギの実が豊富な場所を探す
オオマシコはヤマハギの種子をとくに好むので、たくさん実っている場所は有力なポイントになります。ヤマハギは林道沿いなどの明るく開けた場所に生えるので、結果的に1と2はセットになります。
3 地上に降りていることが多い
落ちた種子を採食するため、地上にいることも少なくありません。樹上だけでなく、地上にも目を凝らして探さないと、気づかずに近づきすぎて飛ばしてしまうかもしれないので注意。
以上を踏まえて、道沿いにヤマハギが生えている場所を丹念に探索。すると、フィッ、フィッフォ、フィッフォという鳴き声が聞こえました。ベニマシコの典型的な鳴き声です。声のする方向を見ると、まさに淡紅色のオスが草の上にのぼってきて、種子を食べていました。今回はベニマシコを探そうとは思っていなかったので、予期せぬうれしい出会いです。こうなれば、当初の目的であるオオマシコも見つけ出して、赤い鳥3種盛りといきたいところですね。
探索していると、ときおりイスカの群れが飛んでいきます。ある群れはアカマツの梢近くにとまってから、次々に地上へ降りていきました。どうも下に沢が流れていて、水を飲みに降りているようです。種子ばかり食べていると喉が渇くのだろうな、などと考えていたとき、チー、チーというあまり聞きなれない金属音っぽい鳴き声がしました。聞くのは10年ぶりくらいでしたが、すぐにオオマシコだとわかりました。周囲に目を凝らし、オオマシコが木の梢にとまっている姿を捉えたのですが、すぐに飛び立ってしまったので、見失ってしまいました。でも、まずはこのフィールドにオオマシコがいることがわかっただけでも、よしとしましょう。
近すぎた?オオマシコ
しばらく周囲の探索を続けると、チー、チーという鳴き声が再び聞こえ、数羽が木の梢にとまりました。その後、いったん低木にとまったあと、地上に降りました。ようやくオオマシコの姿をじっくり観察することができました。
はじめは20メートルほど距離があったのですが、しゃがんでじっとしていると、採食しながらどんどん近づいてきます。その距離はどんどん縮まり、わたしは(え?そんなに近くていいの?と)ドキドキ。ついに4メートルを切ると、わたしの使用している600mmレンズでは最短撮影距離を割り込み、ピントが合いません。わたしはカメラを構えるのをやめ、赤い鳥とこの空間に一緒にいる至福の時を楽しみました。
今回はイスカとオオマシコ、2つのミッションを無事に達成。さらにベニマシコも観察できて、うれしい赤い鳥3種盛りとなりました。よし、次は青い鳥3種盛りだ!とはいかないでしょうけど、そろそろ夏鳥の渡りを気にしながら日々鳥見しようと思います。次回もお楽しみに。
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髙野丈
文一総合出版編集部所属。『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』(著:石田光史)の担当編集者。自然科学分野を中心に、図鑑、一般書、児童書の編集に携わる。その傍ら、2005年から続けている井の頭公園での毎日の観察と撮影をベースに、自然写真家として活動中。自然観察会やサイエンスカフェ、オンライントークなどを通してサイエンスコミュニケーションにも取り組んでいる。得意分野は野鳥と変形菌(粘菌)。著書に『探す、出あう、楽しむ 身近な野鳥の観察図鑑』(ナツメ社)、『世にも美しい変形菌 身近な宝探しの楽しみ方』(文一総合出版)、『井の頭公園いきもの図鑑 改訂版』(ぶんしん出版)、『美しい変形菌』(パイ・インターナショナル)、共著書に『変形菌 発見と観察を楽しむ自然図鑑』(山と溪谷社)がある。