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憧れの鳥探しに挑戦! 第1回《ムギマキに会いたい》

Author:髙野丈(編集部)

こんにちは、文一総合出版編集部の髙野丈です。冬鳥が増えてきて、鳥見がますます楽しみな季節になってきました。
さて、プロバードガイド・石田光史さんの新刊『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』の紹介記事「プロがひもとく、鳥探しの虎の巻」を、先月noteに書きました。この本を読めば旬の鳥がわかるので、季節に応じて計画的に鳥を見に行けますし、探し方を知ることができるので、いつかは見たいと願う憧れの鳥に出会えるチャンスも増します。紹介記事を書きながら、野鳥好きの人たちにとって画期的な本だ!などと自画自賛しているとき、ふとひらめきました。憧れの鳥探しを実践してみよう、と。わたしは25年以上野鳥を観察していますし、毎日観察するようになってから20年近くになります。多くの種を見てきましたが、もちろん見たことのない種もまだまだいますし、満足いくほど観察できていない種も少なくありません。そこで今回、『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』の担当編集者として、みずからも憧れの鳥探しに挑戦することにしました。
*参照:
憧れの鳥探しに挑戦! 第2回《アオシギを見つけ出せ》
憧れの鳥探しに挑戦! 第3回《降りてこなかったトラツグミ》
憧れの鳥探しに挑戦! 第4回《シマエナガをかわいく撮りたい》

憧れの鳥探し、最初にねらうのはムギマキ

この企画を考えたのは10月。誌面で紹介している10月の4つのミッションのうち、わたしの目に留まったのはムギマキでした。ムギマキは観察できる機会が少ないヒタキのなかま。旅鳥で、おもに秋の渡りでまれに出会えることがある程度。個人的には10年ほど前に谷川連峰のふもとの林道を歩いていて、たまたまクマノミズキの実を食べていた若鳥に出会ったくらい。そのときは十分に観察できなかったので、この機会にしっかり観察したいところです。

『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』10月で紹介しているムギマキの探し方

探しにいく時期は10月下旬、探鳥地はこの本でも紹介している戸隠森林植物園(長野県)にしました。探し方の3つのポイントを参考にし、まずはツルマサキを探します。ツルマサキは他の樹木に巻き付いて伸びるつる植物で、この時期赤い実がなります。ムギマキはその実を好むので、待っていれば食べにくるという寸法です。とはいえ、どこでも実がなっていれば食べにきてくれるわけではありません。不思議なことに、同じ種類の木で同じように実がなっていても、鳥が集まる木とまったく来ない木があるのです。鳥に好まれる木を探さないと、出会いは叶いません。

紅葉の最盛期を過ぎ、落葉が進んでいた戸隠森林植物園

よくホバリングする小鳥を発見

広大な森林植物園のそこかしこで実をつけているツルマサキを観察してまわり、小鳥がやってこないか確認しました。ツルマサキは常緑なので、木々が落葉している中で目立ちます。写真のようにわかりやすいので、探すのに苦労はしないでしょう。

高木の幹に巻きついて上に伸びる
実がついていない株で待っても時間の無駄。赤い実がなっていることを確認しよう

広範囲を探し、ツルマサキに小鳥がいるのをようやく発見。双眼鏡で確認すると、ムギマキのメスタイプ(メスかオスの若鳥)でした。憧れの鳥、いただきです! 観察していると、コゲラやコガラ、ルリビタキ、ジョウビタキなども実を食べにやってきます。そのなかで、ムギマキはひんぱんにホバリング(停空飛翔=素早く羽ばたきながら空中の一点にとどまること)しながら葉をゆらしていました。これも探し方のポイントに一致しています。

ムギマキを発見! 橙色のグラデーションが美しい
ホバリングしながら実を採食する

ムギマキはなぜ、ひんぱんにホバリングするのか。その理由はツルマサキの実のつき方にあるようです。赤い実は、小鳥でもとまれないほど細長い柄の先端につき、しかも下向きです。とまれる枝からでは届かない実を獲得するには、停空飛翔しかないというわけです。

これでは届きそうもない
ならば空中からいくのみ!

ムギマキの行動を観察する

ムギマキに出会えるのはまれなので、この機会に徹底的に観察することにしました。ここからは誌面では紹介していない応用編です。ムギマキはホバリングを交えながら実をいくつか食べたあと、いったん飛び去ります。このとき、①ほぼ隣接する木にとまる、②林床に降りる(茂っていて見えない)、③位置を見失うほど離れた場所まで飛んでいく、の3パターンがあることがわかりました。②③では姿を見失ってしまうのですが、①のときには行動が観察できました。多くの場合、周囲の木にとまってじっと動きません。しばらくすると喉をもごもごさせ、種を吐き出します。これを食べた実の個数分繰り返します。そしてすべての種を吐き出すと、再びツルマサキに移動して実を数個食べるのです。

モゴモゴ
ペッ!

なぜ、ツルマサキなのか

戸隠高原にはほかにも木の実があるのですが、ムギマキはツルマサキの実を好んで食べます。実といってもムギマキが食べるのは、じつは赤い種子であり、果肉はほとんどありません。これは同じニシキギ科のニシキギやツルウメモドキ、マユミと同じつくり。なぜ、このように食べる部分の少ない実を好んで選ぶのでしょう。種子を真っ赤に目立たせて食べさせる?植物の戦略によってだまされているのでしょうか。

ムギマキは、だまされてなどいません。じつは、種子をおおう仮種皮(かしゅひ)にはオイルがたっぷり含まれています。その含有量は豊富で、直径数ミリの小さな種子1つで、ヒトの両手分のハンドクリームになるほど。ムギマキはこのオイルをせっせと摂取し、渡りに必要なエネルギーを蓄えているのでしょう。

渡りのエネルギー、いただきっ!

今回の憧れの鳥探しチャレンジではお目当てのムギマキに出会うことができ、さらによく観察することによって、興味深い知見を得ることができました。次回は、まだ見たことがない憧れの鳥を狙いたいと思います。

オンライントーク開催決定!
『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』著者、石田光史さんの講演
「プロバードガイド石田光史が語る 鳥探しの神髄」を開催します。
日時:2023年12月22日(金)19:00〜20:00
参加費無料。詳細・参加申込は以下Peatixのイベントページにてお願いいたします。

Author Profile
髙野丈
文一総合出版編集部所属。自然科学分野を中心に、図鑑、一般書、児童書の編集に携わる。その傍ら、2005年から続けている井の頭公園での毎日の観察と撮影をベースに、自然写真家として活動中。自然観察会やサイエンスカフェ、オンライントークなどを通してサイエンスコミュニケーションにも取り組んでいる。得意分野は野鳥と変形菌(粘菌)。著書に『探す、出あう、楽しむ 身近な野鳥の観察図鑑』(ナツメ社)、『世にも美しい変形菌 身近な宝探しの楽しみ方』(文一総合出版)、『井の頭公園いきもの図鑑 改訂版』(ぶんしん出版)、『美しい変形菌』(パイ・インターナショナル)、共著書に『変形菌 発見と観察を楽しむ自然図鑑』(山と溪谷社)がある。


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