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使ってみよう!『日本の昆虫1900』〜実践編〜

Author:槐 真史(あつぎ郷土博物館学芸員)

 日本の昆虫は約3万1千種もいて、どれがどれだか迷うばかり。「混虫(こんちゅう」という漢字がしっくりする生きものだなと、僕は思っています。でも、見るべきポイントを知って接するだけで、ドンドン昆虫との距離感が縮まり、あなたの昆活ライフ(※)が充実するはずです。大幅リニューアルを果たした『ポケット図鑑日本の昆虫1900(以下、昆虫1900)』で「混虫」から「昆虫」に意識をリセットするところから始めてみましょう。
 (※)昆虫と主体的に付き合い人生を豊かにする活動のこと。

昆虫識別のむずかしさを知る

 あなたの知っている昆虫を思い浮かべてみましょう——チョウ、セミ、バッタにキアゲハ、アブラゼミ、トノサマバッタ。前者は形が似通った種を集めたグループ名、後者は種の名前(種名)です。識別とは種名を知ることですが、たくさんの種名の中から一つに決めるためには、いくつもの「身体チェック」をしなくてはいけません。また、昆虫は体が大きくないので、チェック項目自体が小さく、ルーペや顕微鏡が必須となることもしばしばです。さらに外見の形状だけでなく、体の内部構造を見ることが必要な場合もあります。ここまで読むと、「これは難しくて私には無理だ」とびびるかな——いえ、そんなに臆することはないです。昆虫識別の難しさを知ったあなたにこそ、昆虫1900を手にしてほしいのです。

君の名は? カマキリさんですか? それとも…。答えは昆虫1900の2巻に載っています。探してみましょう(撮影◎中田信好)

大まかに分けてみよう

もし知らない昆虫に出会ったら、まずは目の前の昆虫が、昆虫1900の4~5ページに掲載したカタログのどれに似ているか、ざっくりと分けることからはじめましょう(1巻と2巻の両方に載っています)。チョウやトンボのように、似た姿形のグループ(目[もく])は分けやすく、それぞれ「チョウ目」「トンボ目」となります。一方,カメムシ目やコウチュウ目は、千差万別をした外見の集まりであるため、1つのグループとして理解するのは難しく、「なんで同じグループなのか」を突き詰めるより、所属する大まかな姿形(類[るい])を丸暗記するのがコスパ良いです。例えばカメムシ目ならカメムシ類/アメンボ類/セミ類/アブラムシ類,コウチュウ目ならオサムシ類/ゲンゴロウ類/タマムシ類/カミキリムシ類といったように、昆虫1900のカタログを何度も見ながら、昆虫のグループを覚えてしまいましょう。たったの31目(※) +57類のどれかに所属するのだと、肩の力を抜くことが大事です。

図鑑の4〜5ページの昆虫カタログ。まずはここでアタリを付けてみよう

 (※)昆虫1900では15目+57類を扱っています。

「見るべきところ」を知る

 目や類の目星がついたら、昆虫1900を開いて,該当ページの掲載種に総当たりしましょう。昆虫1900では、皆さんの生活で出会うことが多い種を重点的に掲載しているので、これだけでもある程度は絞り込めると思います。さらにこの本は「見るべきところを知る」ことで、確度高く識別できるように設計されています。
 例えば、最初に出てきたキアゲハですが、ざっくり分けるとグループはチョウ目となります。次に総当たりのときの目の付けどころは、「翅を開いて止まる姿勢」「黄色でトラ模様」「後翅に尾状突起がある」などです。このポイントから仕分けすると、1巻の14-15ページの種と見当がつきます。さらにキアゲハは横のトラ模様なので、15ページの縦のトラ模様の3種とは切り分けられます。あとは14ページの2種のどちらかですが、ここで枠囲いの情報や、丸数字で示した識別点などが役立ちます。結果、前翅付け根の模様をチェックして、キアゲハと識別できるといった具合です。なお、大きさや分布域が合っているかも加えてチェックすると、識別の確度が高まります。

昆虫カタログでアタリを付けたら,そのグループの昆虫をざっくりと見てみよう。最初から正解に辿りつかなくてもOK!間違えながら探すプロセスも図鑑を楽しむポイント


 チョウ目の場合は目立つ色や模様の形が識別に大切ですが、トンボ目は腹部先端の形、セミ科は翅の色や模様、テントウムシ科は触角の長さや背面に毛があるかないかなど、それぞれのグループで識別ポイントは少しづつ違います。こうした目めのつけどころを薄っすらとイメージしていれば、識別までの時間が短くできたり、確度をより高めることにつながるのです。このイメージを養うには、いつも昆虫1900を手元に置いて,すき間時間にページをめくってながめることで、ドンドンと敏感になってゆきますよ。

昆虫1900で辿った識別のプロセスを実際にやってみるとこんな感じ。

識別=ゴールではありません

 識別ができると親近感がわくし、ほかの図鑑やインターネットで検索するときなど、情報が集めやすくなります。でも、識別の効果はこれだけではありません。キリギリス類を識別することで「ヒガシキリギリスが鳴きはじめたから夏が来たな!」と、ほかの人とはひと味違う自然の味わい方ができます。ニシキリギリスやオキナワキリギリスなど、ご当地キリギリスに出会うために旅をするのもステキです。ヒガシキリギリスとニシキリギリスの生息状況の違いなどに気づき、調べて研究するのもグットです。このように識別をスタートに昆虫への興味・関心が枝を広げる木のようになれば、昆活はあなたの人生をより豊かなものにしてくれるでしょう。
 昆虫1900には識別のノウハウを詰め込んでいますが、「識別の先」を意識された活用がなされることを強く期待しています。

カラフトキリギリス♂褐色型(左),カラフトキリギリス♂緑色型(右)
国内では北海道のオホーツク沿岸にしか分布しないキリギリス類。この虫に会いたくて、夏の強い日差しの中、海岸をさまよい歩いた。目星をつけたステキな渚(なぎさ)ではついに出会えず。飛行機の時間を気にしながら、ラストチャンスで訪れた渚でいくつもの個体に出会えた。鳴き声を録音しつつ「なんという幸運だ!」 と興奮して観察していたら、飛行機に危うく乗り遅れるところであった

★関連イベントのお知らせ

オンライン講座を7月26日に開催!

 図鑑の刊行を記念して,オンライン講座を開催します。図鑑の制作秘話や白バック写真の撮影法を紹介。1900を使った夏休みの宿題のヒントもあるので,自由研究にお悩み中の小中学生は必見です!

企画展「 夢虫になる夏が来る!」(7月20日〜9月16日)

 昆虫1900の編著者の槐真史さんが学芸員を務めるあつぎ郷土博物館では、昆虫の企画展を7月20日から開催します。人気の昆虫の標本や生態写真のほか、各種イベントも予定されています。お近くの方はぜひ!

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