第1回 野生動物のフィールドサインに夢中になる
発売以来、高い評価を得てきた『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』(熊谷さとし:著/安田守:写真)が、増補改訂版となって1月下旬に刊行されます。ムササビやニホンカワウソ、ツシマヤマネコの情報が追加され(8ページ増)、貴重な生態写真も複数種で刷新しました。
「哺乳類のフィールドサイン?」という方の興味・関心・疑問に応えるため、ブンイチnoteでは本書の巻頭部分を一部抜粋し、3回にわたって公開します。第1回では、「フィールドサインの基本」を紹介します。
野生動物の声に耳を傾けよう
野生動物を観察しようと野山に入っても、なかなか姿を見ることはできない。なぜなら、野生動物たちは人間との接触を極力避けて生活しているからだ。しかし、彼らがはからずも残していった、足跡やフンなどの痕跡を見ることはできる。それが「フィールドサイン」だ。
フィールドサインって何だろう?
フィールドサインは、野生動物が残した足跡やフン、食痕などといった「生活痕」のことだ。フィールドサインからは、その場所でどんな野生動物が何をしていたかを読み取ることができる。ただし、よく似たフィールドサインを残す動物も多いので、ひとつのサインから持ち主を特定するのではなく、一緒に見つかるさまざまなフィールドサインや周辺環境、数日間の天候までを複合的に読み取り、推理し、持ち主にたどりつく……この作業がたまらなく楽しいのだ。
フィールドへ通い経験や知識を積むと、フィールドサインの上に3Dホログラムで野生動物の姿が浮かびあがり、その息づかいまで聞こえてくるようになる。そうなったとき、彼らと目線が同じになり、時間の経つのを忘れ、フィールドサインに夢中になることだろう。
野生動物カレンダー
多くの命がにぎわう春季から夏季は、フィールドへ入るのが楽しい季節だ。しかし、草木が生い茂る時期でもあるので、フィールドサイン探索は困難になる。また、行楽シーズンで多くの人が野山に出入りするので、野生動物は警戒して奥山に避難している時期でもある。そして何より、この季節は多くの野生動物が出産や子育ての真っ最中だ。むやみに彼らのすむエリアに入り込み、ストレスを与えるのはフィールドワーカーの本意ではない。
その点、秋季から冬季にかけては、草木が枯れて見通しが利くようになるので、フィールドサイン探索がしやすくなる。とくに雪がうっすら降り積もった日は、初心者でも足跡を見つけやすい。こうした条件のいい日を選び、フィールドサインを見つけるコツや読み方、また、野生動物との間合いのとり方などを、身につけることからはじめよう!
フィールドサインが見つかる場所
ここでは、身近な環境である「里山」を題材にして、フィールドサインが見つかる場所を紹介する。ここにあげた項目がより多くそろったフィールドであれば、野生動物が生息する可能性が高い。ただし、地域によって条件は変わるので、とにかく場数を踏み「フィールドの勘」を養うことが重要だ。そのため、定期的に通うことのできる「マイフィールド」をもつようにしよう。
田んぼや畑
農家にとっては困りものだが、サツマイモやトウモロコシ、果物のビニールハウスなどを目当てに野生動物が訪れる。
林道やハイキングコース
野生動物もよく利用するので、フンや食痕、ケモノ道への出入り口が見つかる。
河原など水辺環境
川筋を移動する野生動物たちが、河畔林を狐狸道《こりどう》(回廊)として使うので、さまざまな種類の足跡が見つかる。
神社やお寺
多くの野生動物がすむ。御神木になる大木が生えるので、ムササビが巣に利用する樹洞が見つかり、参道では食痕やフンが見つかる。
積雪した公園や駐車場
キツネやノウサギなど、多くの野生動物の足跡やオシッコの跡が見つかる。
写真を見て、「このフィールドサイン、見たことある!」という方もいたと思う。第2回では、フィールイドサインの中でも見やすく、推理が楽しい「足跡」について紹介します。